冬に多い感染症―インフルエンザとノロウイルス―(平成会講演から):2016年12月3日

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【新しいインフルエンザワクチン】

 過去数年間の流行の分析から、B型インフルエンザはB型ビクトリア系統とB型山形系統の混合流行が認められることが明らかとなりました。このため、2015年冬から、インフルエンザワクチンはこれまでの3価(A型2種類+B型1種類)から4価(A型2種類+B型2種類)へと変更となりました(図1)。WHOも4価ワクチンを推奨しており、世界的にも4価ワクチンへ移行しております。昨年変更されたワクチンは、予防効果があったことが報告されています(A型ではワクチン非接種者の発症率が3.2%であったのに対し、接種者は1.51%と低率でありました。B型では非接種者の発症率が1.5%に対し、接種者は1.4%と差はありませんでした)(図2)。今年のワクチンはA2種類(A/カルフォルニア7/2009/H1N1A/香港/4801/2014/H3N3)とB2種類(B/山形、B/ヴィクトリア)となり、昨年とはAH3N2が変更となっています。

【インフルエンザの症状・風邪との違い】

 かぜ症候群の症状はのどの痛み、くしゃみ、鼻水、鼻閉、発熱、咳、頭痛、全身倦怠感などです。これに対し、インフルエンザは通常、これら風邪症状は少なく、突然の高熱、頭痛や筋肉痛などの全身症状で発症し、いわゆる風邪症状はこの後に出現してくることが多いことが特徴です。しかし高齢者やB型インフルエンザでは微熱にとどまることもまれではありません。インフルエンザの潜伏期間は1~3日ですが、感染した患者からのウイルスの排出は3日目が最も多く、7日までは排出の可能性があります。大多数の人は特に治療を行わなくても、1~2週間で自然治癒しますが、抗インフルエンザ薬の投与により、発熱期間は短縮し、重症化も予防されることがわかっています(図3)。

 【インフルエンザの種類】

インフルエンザにはA型、B型、C型の3種類があります。このうちB型とC型は1種類ですが、A型は、ウイルス遺伝子の表面にある赤血球凝集素(HAhaemagglutinin)とノイラミニダーゼ(NAneuraminidase)という糖蛋白(人間の指紋のようなものと思って下さい)の組み合わせによって、約144種類のウイルス亜型が存在します(図4)。HAH1H1616種類、NAN1N9の9種類あり、これらの組み合わせにより多種類のウイルスの亜型が存在するわけです(図5)。

 

【インフルエンザの診断と治療】

1)インフルエンザの診断

通常インフルエンザの診断は①症状:突然の発症、38℃を超える発熱(高熱を呈さないこともあります)、風邪様症状、頭痛、関節痛などの全身症状、②迅速インフルエンザ診断キット(口や鼻からぬぐい液を採取して15分程度で結果がでます)で行います。しかし感染早期では迅速キットでは検出できない場合もあり、半日から一日後に再検査して感染が確定する場合もあります(図6)。

 2)インフルエンザの治療・出校・出勤:

 治療は①一般的対症療法(安静と睡眠、水分補給、部屋の保湿と加温、解熱剤(アセトアミノフェンが比較的安全)の投与、風邪様症状に対する投薬)と②抗インフルエンザ薬(経口剤のタミフル、吸入薬のリレンザ(ともに5日間投与)があり、最近は1回の投薬で治療が可能な注射薬のラピアクタ(1回注射のみ)、吸入薬のイナビル(1回の吸入のみ)も使用されています。これらの抗インフルエンザ薬は妊婦にも投薬可能で、授乳者は授乳は2日間中止するのが一般的です。また治療後の出校については、「学校保健安全法施行規則」により、発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日(幼児にあっては3日)を経過するまでとなっており、出勤に関しても同様に指導します(図7、図8)。

 

【インフルエンザの予防】

 インフルエンザの予防は帰宅時のうがい、手洗い、流行前のワクチン接種、適度な湿度の保持、十分な休養と睡眠が重要です。妊婦や授乳者へのワクチン接種は、妊娠中にワクチン接種を受けたことによって流産や先天異常の危険性が高くなるという報告はありません。また母乳を介してお子さんに影響を与えることはないので、授乳中の患者には問題ありません(図9)。またインフルエンザワクチンを受けられないお方については図10に、他のワクチンとの接種間隔は図11に示しました。

 

【肺炎球菌ワクチンの接種の推奨】

 インフルエンザの重大な合併症に肺炎があります。インフルエンザ流行時の肺炎の原因は約55%が肺炎球菌であり、肺炎球菌ワクチンの接種も有用です(図12)。

【感染性胃腸炎とは?】

感染性胃腸炎はウイルスや細菌、有害物質などに汚染された食物や水によって引き起こされ、主として下痢・腹痛・発熱・嘔吐などの症状を起す病気です。毎年秋から冬にかけて流行します。一般的にはウイルスによるものは比較的軽症で、重症化例の80%以上は細菌性です(図13)。

【感染性胃腸炎の原因】

政府広報オンラインからのデータでは(図14)胃腸炎の原因はウイルス性70.0%、細菌性22.2%、自然毒1.0%、化学物質0.5%、その他1.8%、原因不明4.5%となっています。これらのうち狭義の意味では感染性胃腸炎はウイルス性、細菌性であり、自然毒や化学物質は非感染性胃腸炎と分類されます。また原因食品では、魚介・加工品類が最も多く、肉類、野菜、乳製品などからの感染も多く認められます。夏季には細菌性食中毒(カンピロバクター、サルモネラ、腸炎ビブリオなど)が多く、冬季にはウイルス性食中毒(ほとんどはノロウイルス)が多く認められます。

 【冬に多い感染性胃腸炎・ノロウイルス】

 感染性胃腸炎で最も多く認められるのは、ノロウイルスによるもので、11月頃から増加し、1月~2月にピークを迎えます。感染経路はウイルスを蓄積したカキなどの貝類の生食、患者の糞便・吐物からの経口感染、糞便や嘔吐物の乾燥した中に含まれているウイルス粒子が空気を介しての経口感染です。潜伏期間は1~2日で、症状は嘔気・嘔吐、下痢、腹痛が主な症状で発熱は比較的軽度です。症状は通常1~2日で改善傾向となります。軽快後も3日間は便中にウイルス排泄が続くため、患者や周囲の人の厳重な手洗いが必要です。一般的な治療は点滴などで脱水を改善し、整腸剤や抗生剤の投与を行います。強力な下痢止めは病原体の排泄を遅らせるため通常は使用しません。体温が38℃以上を持続したり、下痢が一日10回以上続いたり血便があったり、脱水、腹痛、嘔吐などの症状が強い場合には重症で、入院加療が必要です。感染予防は、熱湯(85℃以上)で1分以上の加熱、患者の糞便・吐物の処理で、アルコール消毒では死滅しません。消毒には次亜塩素酸ナトリウム液での処理が必要です。一般的な次亜塩素酸ナトリウム液の作り方は500mlのペットボトルを用意し、そのフタ1杯(5ml)のハイター(次亜塩素酸ナトリウム6%)を入れて、あとは水を入れて500mlにすると、1/100溶液(600ppm)が作成できます。ノロウイルスを不活化するのに、600ppmの濃度が必要であり、簡便な作成方法です(図15、図16)。

【感染性胃腸炎の予防】

 感染性胃腸炎は予防が最も大切です。予防には①食品の買い方(肉、魚、野菜は新鮮なものを購入し、賞味期限に注意)、②食品の保存の仕方(買い物から持ち帰ったらすぐに冷蔵庫・冷凍庫に保存)、③料理の下準備(手洗いを行い、野菜はよく水洗いをする。室温解凍はせず、解凍したらすぐ料理する)④料理の仕方(加熱するものは十分加熱する。途中で料理をやめる場合には冷蔵庫へ保存し、再調理では十分加熱する)⑤食事の仕方(手を洗い、料理は長く放置せず、早めに食べる)、⑥残った食品の扱い方(時間がたったら捨てる。暖めなおす時には75℃以上にする)などの注意が必要です。家族内で患者さんは出た場合には、手洗いをきちんと行い、タオルは患者さん専用にして、患者さんは浴槽には入らずシャワーとし、吐物や汚物は適切に処理し、感染を広げないようにしましょう)。                                         

                    平沼クリニック 院長  大畑 充

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