胃と腸のはなし

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1.ピロリ菌と胃・十二指腸潰瘍、胃癌:

胃潰瘍や十二指腸潰瘍は以前はストレスや鎮痛剤などが主な原因とされてきましたが、最近では潰瘍の発病や再発の大きな要因としてヘリコバクタ・ピロリ菌(以下ピロリ菌)が注目されています。

ピロリ菌は大きさが約1ミリの250分の1程度の細菌で、らせん状の形をし、4~8本のべん毛を持っています。通常の細菌は胃液の中の胃酸のため生きていることは出来ません。しかしこのピロリ菌は「ウレアーゼ」とうい酵素を持ち、胃に中にある尿素という物質からアンモニアを産生します。アンモニアはアルカリ性なので、胃酸を中和して自分の周囲を中性に近い状態にして生き延びているのです。ピロリ菌はアンモニアを産生したり、様々な有害物質を産生して胃粘膜を傷害します。

ピロリ菌の感染率は年代とともに上昇し、20歳では20%、40歳では40%、60歳以上では約70~80%といわれています。また発展途上国で高く、日本の感染率は先進国の中ではかなり高率です。感染経路は経口感染がほとんどですが、明らかにはされていません。

現在ピロリ菌は胃潰瘍・十二指腸潰瘍の発病・再発とは明らかに関係していることが判っていますが、さらに胃癌やポリープとの関連もある可能性が示されています。欧米ではすでに胃癌の重要な要因の一つにピロリ菌があげられております。また胃ポリープの中にはピロリ菌を駆除(除菌)することで、ポリープが縮小あるいは消失したとの報告もあります。

ピロリ菌が感染しているかどうかは内視鏡で行う検査(胃の中の組織を取って、検査液で反応をみたり、顕微鏡で確認する)や尿素呼気反応(尿素の入った液を服用して、呼気中にピロリ菌と反応した物質を測定する方法)、血液で血清抗体を測定するなど様々な方法があります。胃潰瘍・十二指腸潰瘍の患者さんでピロリ菌が検出されたら除菌をするのが良いと考えられます。

除菌は胃酸を抑える薬(プロトンポンプ阻害剤)1種類と抗生剤を2種類(アモキシリン、クラリスロマイシン)、を1週間服用するだけです。除菌の成功率はおおよそ70~80%程度です。一度除菌されれば再感染は極めて少ないと考えられています。除菌が成功した場合には潰瘍の再発率は極めて低くなります。

2.食道疾患―比較的多い「胸やけ」―逆流性食道炎:

食道疾患で比較的多いのが逆流性食道炎です。これは胃液が食道に逆流することによって起こる食道の炎症(ただれ)で、主な症状は胸やけ、胃もたれ、胸の痛み、喉の不快感などです。また物を飲み込んだときにつかえる感じがする場合もあります。胸やけが1ヶ月以上続くようであれば可能性は高いと考えられます。

症状は就寝前の飲食、食べ過ぎ、早食い、脂っこいものを食べた時に起こりやすくなります。診断は問診(患者さんからの話)と診察でかなりまでつけることができますが、一定の年齢以上の方ではやはり食道癌などを否定するためにも、また診断を確定するためにも胃内視鏡検査(胃バリウム検査では確認が難しい)が必要です。症状は胃酸を抑える薬剤(とくにプロトンポンプ阻害剤)で速やかに改善しますが、薬をやめると症状が再発しやすい病気です。

3.大腸ポリープと大腸癌:

大腸ポリープの多くは小さいうちは腺腫という良性の腫瘍ですが、大きくなると共に癌化する可能性がでてきます。もちろんすべてが癌化するわけではなく、小さいものはそのまま変化しないこともあります。便潜血反応などで陽性の方はポリープの可能性がありますので、かならず大腸精密検査(大腸バリウム検査あるいは大腸内視鏡検査)が必要です。

精密検査でポリープが発見されたら、内視鏡で切除するのが一般的です。癌化しても小さなもので、粘膜の深くまで癌が入り込んでいなければ手術をせずに内視鏡で取りきることも可能です。大腸癌は多くはポリープから進展しますが、一部はポリープを経ずに直接正常粘膜から発生する癌(de Novo癌)があります。

いずれにしろ便潜血検査による大腸癌健診を受けることが大切ですが、もちろんこれですべてが診断できる訳ではありませんので、症状があるようなら直接大腸精密検査を受けてください。

4.機能性消化管疾患:

機能性消化管疾患という病名はあまり聞きなれないと思いますが、一般の患者さんの中ではかなり多い疾患の一つです。

①消化管に由来すると考えられる症状(腹痛、便通異常など)が1年間のうち、12週以上の期間にわたって出現。

②症状を説明するような器質的所見がない。

③症状を説明するような生化学的異常がない。

の3つが重要なポイントですが、通常2週間のうち4回程度このような症状があれば疑います。上腹部が症状の中心の場合には機能性胃腸症(胃痛、胃部不快感、胃もたれ、嘔気など)が考えられ、また下腹部が症状の中心の場合には過敏性結腸症候群(下腹部痛や下痢・便秘などの便通異常)と考えられます。

通常、体重が減ったり、便に血が混じったり、夜間に腹痛で目覚めるようなことはありません。症状から診断は比較的簡単ですが、診断を確定するためには胃・大腸の検査が必要です。これらの疾患はある意味「ストレス病」と考えられており、ストレスや過労で悪化します。日本人(成人)の約10~20%にこのような症状が認められます。治療は各種消化剤、制酸剤、胃腸機能改善薬などで行いますが、症状が強い場合や改善しない場合には精神安定剤や抗うつ剤などを使用することもあります。

以上のように食道、胃・十二指腸、大腸に関する疾患についてお話をしましたが、このような消化器系の疾患はやはり健診を含めた画像検査による早期発見が最も大切です。皆さん是非とも健診は受けてください。

文責:大畑 充

カテゴリー: 胃と腸のお話し   タグ: , , , , , ,   この投稿のパーマリンク

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