『インフルエンザと今年流行の肺炎の話』(平成会講演・平成24年12月1日から)

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1.2011年~2012年のインフルエンザの特徴:

 2011年~2012年度のインフルエンザ患者の報告数は約1,600万人にのぼり、過去10年間で2番目の流行でした。これまで流行していたAソ連型(H1N1)、新型インフルエンザと言われたH1N1pdm2009はほとんど流行せず、A香港型(H3N2)およびB型が流行しました(図1)。また2009年に大流行したH1N1pdm209については、感染はほとんど見られず、今後消失していく可能性もあると考えられております。

 2.インフルエンザと風邪の違いは?

 インフルエンザと通常の風邪の大きな違いは、インフルエンザは発病が突然で、高熱、頭痛や全身の痛みを伴い、いわゆる風邪症状(のどの痛み、鼻水、咳や痰など)はこの後に出現してくることが多いという点です(図2)。また比較的消化器症状(下痢や嘔吐など)を伴うことも珍しくありません。感染は咳などの飛沫感染や接触感染で、潜伏期は1~3日ですが、感染した患者からのウイルスの排出は3日目が最も多く、7日までは排出の可能性があります。大多数の人は特に治療を行わなくても、1~2週間で自然治癒しますが、抗インフルエンザ薬の投与により、発熱期間は短縮し、重症化も予防されることがわかっています。症状はA型の方がB型に比べて強いことが多く、B型の方が薬が効きにくいといわれています。流行期間は11月~4月ですが、新型インフルエンザが発生して以来、小規模ながら、1年中発生しています。

 3.インフルエンザの種類

 インフルエンザにはA型、B型、C型の3種類があります。このうちB型とC型は1種類ですが、A型は、ウイルス遺伝子の表面にある赤血球凝集素(HA:haemagglutinin)とノイラミニダーゼ(NA:neuraminidase)という糖蛋白(人間の指紋のようなものと思って下さい)の組み合わせによって、数十種類のウイルス亜型が存在します。HAはH1~H16の16種類、NAはN1~N9の9種類あり、これらの組み合わせにより多種類のウイルスの亜型が存在するわけです(図3)。20世紀に流行したのは H1N1(ソ連型), H2N2(アジア型),  H3N2(香港型), H1N1pdm2009(新型と言われたもの)などです。

 4.インフルエンザの診断、治療、予防

1)インフルエンザの診断

 通常インフルエンザの診断は①症状:突然の発症、38℃を超える発熱(高熱を呈さないこともあります)、風邪様症状、頭痛、関節痛などの全身症状、②迅速インフルエンザ診断キット(口や鼻からぬぐい液を採取して15分程度で結果がでます)で行います。しかし感染早期では迅速キットでは検出できない場合もあり、翌日再検査して感染が確定する場合もあります。 

2)インフルエンザの治療・出校・出勤:

 治療は①一般的対症療法(安静と睡眠、水分補給、部屋の保湿と加温、解熱剤(アセトアミノフェンが比較的安全)の投与、風邪様症状に対する投薬)と②抗インフルエンザ薬(経口剤のタミフル、吸入薬のリレンザ(ともに5日間投与)があり、最近は1回の投薬で治療が可能な注射薬のラピアクタ(1回注射のみ)、吸入薬のイナビル(1回の吸入のみ)も使用されています。これらの抗インフルエンザ薬は妊婦にも投薬可能で、授乳者は授乳は2日間中止するのが一般的です。また治療後の出校については、「学校保健安全法施行規則」により、発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日(幼児にあっては3日)を経過するまでとなっており、出勤に関しても同様に指導します。 

3)インフルエンザの予防:

 インフルエンザの予防は帰宅時のうがい、手洗い、流行前のワクチン接種、適度な湿度の保持、十分な休養と睡眠が重要です。妊婦や授乳者へのワクチン接種は、妊娠中にワクチン接種を受けたことによって流産や先天異常の危険性が高くなるという報告はありません。また母乳を介してお子さんに影響を与えることはないので、授乳中の患者には問題ありません 

5.今年流行の肺炎

 近年肺炎による死亡者が増加しており、これまで死因の4位(1位・悪性新生物、2位・心疾患、3位・脳血管疾患、4位・肺炎)でしたが、平成23年には肺炎が死因の3位となっています(図4)。このうち高齢者の肺炎の原因で最も多いのは肺炎球菌(肺炎の原因の約40%)ですが、この肺炎球菌にはワクチン(1回接種で約5年間は有効です(対象は65歳以上))があり、かなりの予防効果を持っております。

 また昨年から今年にかけて、マイコプラズマ肺炎が大流行しています。マイコプラズマ肺炎は肺炎マイコプラズマを病原体とする肺炎で、潜伏期間は2~3週間と長く、症状は発熱、全身倦怠、頭痛などの後、3~5日後より乾性の咳が増強し、解熱後も1か月近く咳が続きます。診断は特異的IgM抗体迅速検出キット、血清抗体価、PCR法などがあります。治療はマクロライド系抗生剤を使用しますが、近年耐性菌も出現してきており、その場合には別の抗生剤の投与も考慮します(図5)。

 (文責)平沼クリニック 院長 大畑 充

 

 

 

 

 

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