早めに発見、早めに治療ー今どきの癌のお話しー ~胃がんとピロリ菌の話も含めて~

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  日本人の死亡原因の約3分の1は癌(悪性腫瘍)、また約3分の1が生活習慣病による動脈硬化から生じた心臓・脳血管疾患(心筋梗塞や脳梗塞など)であり、この2つが死因の60~70%を占めます。従って健診の大きな目的は、がん検診と高血圧、糖尿病、高脂血症などの生活習慣病の早期発見にあると言って過言ではありません。癌の早期発見には、各種がん検診が有用で、40歳以上の年代では、胃癌健診、大腸癌健診、肺癌検診、さらに男性では前立腺癌検診、女性では乳癌健診、子宮癌健診などが行われています。
  財団法人がん研究振興財団資料(図1)では2009年度の日本人の癌による死亡数は男性では肺癌、胃癌、大腸癌、肝臓癌、膵臓癌の順(ただし癌に罹患する率は胃癌が最も多く、大腸癌、肺癌の順)であり、女性では大腸癌、肺癌、胃癌、膵臓癌、乳癌の順(癌に羅患する率は乳癌が最も多く、大腸癌、胃癌の順)です。


  2005年3月から2011年10月までの6年8ヶ月間で平沼クリニックで発見された癌患者は209名でした。その中で最も多かった癌が胃癌で53名(早期胃癌42名、進行胃癌11名)、その次に多かったのが大腸癌で30名(早期癌16名、進行癌14名)でした。胃癌は胃レントゲンや胃内視鏡で比較的早期に発見されることが多く、早期で発見された胃癌の約60~70%の患者さんは手術せずに、内視鏡で治療が可能でした。一方大腸癌の約半数は進行癌でした。便潜血反応は有用な検査であり、大腸癌による死亡率を低下させると報告されていますが、やはり症状がある場合には大腸内視鏡検査を受ける事が大切です。以下肺癌25名、乳癌19名、前立腺癌16名、膵臓癌10名、膀胱癌10名、肝臓癌7名、食道癌7名(早期癌4名、進行癌3名)腎臓癌6名、甲状腺癌6名、その他の癌20名でした。肺癌は胸部X線での診断はなかなか困難であり、胸部X線検査で僅かでも異常があった場合には胸部CT検査が有用です。乳癌は触診はもとより、マンモグラフィーによる乳癌検診が最も有用です。前立腺癌は、血液による検診(PSA検査)により、異常値を示した患者さんを専門の泌尿器科に紹介して発見される例がほとんどでした。膀胱癌、肝臓癌、腎臓癌、甲状腺癌はほとんどが超音波検査(エコー)で発見されました。10年前に比べて男女とも死亡数が非常に増加している膵臓癌はやはり、超音波検査で発見されることがほとんどですが、症状がなかなか出ず、また進行が速いため、早期で発見する事は極めて困難でした。食道癌は全例定期的な胃内視鏡検査で発見され、半数が早期で発見されており、4例中3例は内視鏡的切除により治癒しております。

  癌の原因として、様々な物質がありますが、B型およびC型肝炎ウイルスと肝臓癌、喫煙と肺癌との関連は有名ですが、最近胃の中に住んでいるピロリ菌(ヘリコバクタ・ピロリ菌)と胃癌の関係が注目されています。もともとピロリ菌は胃潰瘍・十二指腸潰瘍の原因として有名です。ピロリ菌は大きさが約1ミリの250分の1程度の細菌で、らせん状の形をし、4~8本のべん毛を持っています。通常の細菌は胃液の中の胃酸のため生きていることは出来ません。しかしこのピロリ菌は「ウレアーゼ」とうい酵素を持ち、胃に中にある尿素という物質からアンモニアを産生します。アンモニアはアルカリ性なので、胃酸を中和して自分の周囲を中性に近い状態にして生き延びているのです。ピロリ菌はアンモニアを産生したり、様々な有害物質を産生して胃粘膜を傷害します。
  ピロリ菌の感染率は年代とともに上昇し、20歳では20%、40歳では40%、60歳以上では約70~80%といわれています。また発展途上国で高く、日本の感染率は先進国の中ではかなり高率です。感染経路は経口感染がほとんどで、口から口への感染(食べ物を子供に、口移しで食べさせる時の感染が多い)が重要な感染源です。また井戸水からの感染や、ゴキブリなどが媒介する可能性もあります。さらに胃癌や過形成ポリープとの関連も指摘されています。実際にピロリ菌感染者はピロリ菌非感染者に比べて胃癌の発病率は約3倍との報告もありますし、またピロリ菌の除菌により慢性胃炎が改善したり(図3:平沼クリニックの患者さんの胃内視鏡所見です)、胃のポリープ(過形成性ポリープ)が消失したという報告も沢山あります(図4:平沼クリニックの患者さんで実際に除菌によってポリープが消失した例)。ピロリ菌が感染しているかどうかは内視鏡で行う検査(胃の中の組織を取って、検査液で反応をみたり、顕微鏡で確認する)や尿素呼気反応(尿素の入った液を服用して、呼気中にピロリ菌と反応した物質を測定する方法)、血液や尿の抗体を測定するなど様々な方法があります。胃潰瘍・十二指腸潰瘍の患者さんでピロリ菌が検出されたら除菌すべきと思います。

  除菌は胃酸を抑える薬(プロトンポンプ阻害剤)1種類と抗生剤を2種類(アモキシリン、クラリスロマイシン)を1週間服用するのみで、除菌の成功率はおおよそ70~80%程度です。1回目の除菌で除菌できなかった場合には別の方法(プロトンポンプ阻害剤1種類と、アモキシリン、メトロニダゾールを1週間服用)があり、この方法での除菌率は約90%程度です。一度除菌されれば再感染は極めて少なく、約1~2%程度の再感染率と報告されていますが、成人になってからの感染はあまり問題にならないと考えられています。除菌の副作用は発疹、下痢、味覚障害、肝障害などですが、重篤なものはそれほど多くはありません。除菌が成功した場合には潰瘍の再発率は極めて低くなり、また胃癌の発生を抑えると考えられています。
 癌は早期に発見すれば、治療可能な場合がほとんどです。日本人の死亡原因の3分の1を占める癌を早期発見するために、がん検診を受けることをお勧めします。  文責:大畑 充

カテゴリー: 健診のお話   パーマリンク

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