ピロリ菌と胃の話-最新の話題-」ー胃癌撲滅元年のスタートへー

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「ピロリ菌と胃の話-最新の話題-」ー胃癌撲滅元年のスタートへー

(平成25年9月7日・平成会・健康教室から)

  様々な研究から、胃癌の最も大きな原因として、ヘリコバクター・ヒロリ菌(以下ピロリ菌と省略します)が関連してことがわかってきましたが、これまでは保険でピロリ菌が胃の中に感染しているかどうかを検査したり、さらには除菌ができるのは胃潰瘍・十二指腸潰瘍、早期胃がんの内視鏡的治療後、胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病の患者さんに限られていました。しかし平成25年2月21日から「内視鏡検査において胃炎の確定診断がなされた患者」まで適応となり、ついに胃炎の患者さんに対してもピロリ菌の検査・治療が可能となりました(図1)。これにより日本人の胃癌は将来かなり減少する事が期待されます。

 ピロリ菌は正式にはヘリコバクター・ピロリという細菌です。菌の長さは約4ミクロン(4/1000mm)の、右巻きにねじれたラセン形の菌で、4~8本のべん毛が生えています。胃の粘膜(上皮と粘液の中)に好んで住み着いて、粘膜の下にもぐりこんで胃酸から逃れています。名前の由来の由来は「ヘリコ」は「らせん」という意味で「バクター」は「バクテリア(細菌)」という意味、「ピロリ」は「胃の出口(幽門)」という意味で胃の出口(幽門)に住む、らせん形の細菌ということになります。胃の中には胃酸があるため、通常の菌は生きていけません。ピロリ菌は「ウレアーゼ」という酵素を持っており、ピロリ菌はこの酵素によって胃の中の尿素という物質からアンモニアを作り出します。アンモニアはアルカリ性で、このアンモニアが胃酸を中和するのです。そのようにしてピロリ菌は自分の周りに中性に近い環境を自分で作り出すことができるので、強酸性の胃の中でも生きていられるのです。図2に各国のピロリ菌の感染率を示します。ピロリ菌の感染率は発展途上国で多く、先進国で少なく、特に上下水道の普及率の悪い国で高くなっています。また日本の感染率は先進国の中では極めて高く、これに伴って胃癌患者も世界の中で多い国の一つとなっています。ピロリ菌の感染率はほぼその年齢と同じ%(50歳の人は約50%、60歳の人は約60%)程度ですが、近年感染率は低下しつつあります。

  ピロリ菌は胃内に感染するとほぼ100%、胃炎(萎縮性胃炎)を起こします。この状態が何十年間経過して、次第に胃の粘膜の萎縮が進行して胃癌発症へと進むと考えられています。またピロリ菌は胃・十二指腸潰瘍の大きな原因となっていますし、さらには胃MALTリンパ腫や胃ポリープ(過形成ポリープ)の原因と考えられており、除菌によって、これらの疾患はかなり改善します。ピロリ菌は胃だけの感染症と考えられがちですが、全身の感染症とも考えられております。血小板減少性紫斑病、鉄欠乏性貧血、慢性蕁麻疹とも関係すると考えられています(図3)。

  実際当院で経験した萎縮性胃炎や胃過形成ポリープを除菌して1年後に胃内視鏡検査を行うと、胃の粘膜はかなりきれいになり、またポリープも消失した患者さんもいます(図4、図5)。

  また胃癌とピロリ菌との関係では、日本から様々な論文が報告され、ピロリ菌の除菌によって、およそ胃癌の発生は3分の1程度に抑えることが可能と推測されています(図6、図7)。

  しかしピロリ菌を除菌すれば、胃がんを完全に予防できるわけではありません。ピロリ菌を除菌した後も、年率約0.4%程度の方が胃癌となります。これは様々な考えがありますが、胃粘膜の萎縮の程度が強い(つまり胃炎の経過が長く、進行した胃炎)方が胃癌になりやすいと考えられています(図8)。

  ピロリ菌の感染は図9のように考えられております。最も大きな原因は親からの経口感染、特に母親からの経口感染が最も多いと考えられています。

 では、除菌はいつ行ったらよいのでしょうか?すでに記載しましたように、胃粘膜の萎縮が進んでいない方が胃癌発生は少なく、またピロリ菌の感染は幼少時の経口感染が主な感染と考えられております。さらに日本ヘリコバクター学会のガイドラインでは「ピロリ菌感染症はすべて除菌療法が行われるべきである」と提言しています。しかし現状では薬剤の適応から成人にしか保険上は除菌できません。このような現状では、成人で可能な限り若い時期に胃内視鏡検査を受けて、胃炎の所見がある場合にはピロリ菌検査・除菌を行うのが最も有効な方法であると考えられます。胃癌による死亡者数は癌による死亡者数(約30万人)の中の第2位で、年間約5万人です。さらにこの死亡者数は過去40年間ほとんど変化しておりません。2次予防の胃検診は重要ですが、ピロリ菌除菌による1次予防がさらに胃癌を減少させる有効な方法と考えられます。B型肝炎やC型肝炎は感染症であり、そのウイルスを駆除する事によって、肝臓癌を減らすことができています。また子宮頸がんの原因であるヒトパピローマウイルス感染をワクチンで予防する事によって、子宮癌の予防になると考えられています。従って、発癌物質であり、感染症であるピロリ菌を除菌することは胃癌発症の一次予防となると考えられ、胃炎の除菌が保険適応になった今年は、胃癌撲滅元年と言えるかもしれません。(文責:平沼クリニック院長 大畑 充)

カテゴリー: 医療全般   パーマリンク

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