知っておきたいインフルエンザの最新情報と肺炎球菌ワクチン

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知っておきたいインフルエンザの最新情報と肺炎球菌ワクチの話」(平成29年12月2日(土)平成会講演から)

 2009年に世界的に大流行した新型インフルエンザは、各国で多数の死亡者を出しましたが、先進国の中では、日本の死亡者数が圧倒的に少なかったことは世界的にも注目されました(図1)。これは早期診断と抗ウイルス薬による早期治療が大いに有効であったとともに、ワクチン接種、マスクの使用や、学級閉鎖などの予防措置が適切になされた結果によるものと考えられています。しかし近年インフルエンザワクチンの接種率は約42%と、アメリカの約60%に比べ、かなり低下しており、それとともにインフルエンザ脳症の発症数も増加しつつあります。すでに今年度はインフルエンザの罹患者が報告されており、積極的に予防を開始すべき時期になってきました。

 インフルエンザワクチンは基本的には日本より流行が早い南半球の流行状況をみつつ、作成されます(図2)。インフルエンザワクチンは2014年までは3価(A型2種類+B型1種類)でしたが、流行の型を考慮して4価(A型2種類+B型2種類)へと変更となりました。今年は厚生労働省からの報告でも、ワクチン不足が危惧されています。

【かぜとインフルエンザの違い】(図3)

 かぜ症候群は通常1年を通じて発症する上気道(鼻腔、副鼻腔、口腔、咽頭、喉頭)に対して急性に発症する炎症性疾患で、通常成人では年2~4回、子供は5~9回も罹患します。症状はのどの痛み、くしゃみ、鼻水、鼻閉、発熱、咳、頭痛、全身倦怠感などです。インフルエンザは通常、季節性を示し、11月頃から流行が始まり、1~3月頃にピークを迎えます。風邪症状は少なく、突然の高熱、頭痛や筋肉痛などの全身の痛みで発症し、いわゆる風邪症状はこの後に出現してくることが多いことが特徴です(B型インフルエンザは微熱のこともあります)。インフルエンザの潜伏期間は1~3日ですが、感染した患者からのウイルスの排出は3日目が最も多く、7日までは排出の可能性があります。大多数の人は特に治療を行わなくても、1~2週間で自然治癒しますが、抗インフルエンザ薬の投与により、発熱期間は短縮し、重症化も予防されることがわかっています。

 

【インフルエンザの種類】

 インフルエンザにはA型、B型、C型の3種類があります。このうちB型とC型は1種類ですが、A型は、ウイルス遺伝子の表面にある赤血球凝集素(HA:haemagglutinin)とノイラミニダーゼ(NA:neuraminidase)という糖蛋白(人間の指紋のようなものと思って下さい)の組み合わせにより、約144種類のウイルス亜型が存在します。HAはH1~H16の16種類、NAはN1~N9の9種類あり、これらの組み合わせにより多種類のウイルスの亜型が存在するわけです(図4)。20世紀に流行したのは H1N1(ソ連型), H2N2(アジア型), H3N2(香港型), H1N1pdm2009(新型と言われたもの)などです。

【インフルエンザの診断と治療】

1)インフルエンザの診断

 通常インフルエンザの診断は①症状:突然の発症、38℃を超える発熱(高熱を呈さないこともあります)、風邪様症状、頭痛、関節痛などの全身症状、②迅速インフルエンザ診断キット(口や鼻からぬぐい液を採取して15分程度で結果がでます)で行います。しかし感染早期では迅速キットでは検出できない場合もあり、翌日再検査して感染が確定する場合もあります(図5)。

2)インフルエンザの治療・出校・出勤:(図6、図7)

 治療は①一般的対症療法(安静と睡眠、水分補給、部屋の保湿と加温、解熱剤(アセトアミノフェンが比較的安全)の投与、風邪様症状に対する投薬)と②抗インフルエンザ薬(経口剤のタミフル、吸入薬のリレンザ(ともに5日間投与)があり、最近は1回の投薬で治療が可能な注射薬のラピアクタ(1回注射のみ)、吸入薬のイナビル(1回の吸入のみ)も使用されています。これらの抗インフルエンザ薬は妊婦にも投薬可能で、授乳者は授乳は2日間中止するのが一般的です。また治療後の出校については、「学校保健安全法施行規則」により、発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日(幼児にあっては3日)を経過するまでとなっており、出勤に関しても同様に指導します。

【インフルエンザの予防】

 インフルエンザの予防は帰宅時のうがい、手洗い、流行前のワクチン接種、適度な湿度の保持、十分な休養と睡眠が重要です。妊婦や授乳者へのワクチン接種は、妊娠中にワクチン接種を受けたことによって流産や先天異常の危険性が高くなるという報告はありません。また母乳を介してお子さんに影響を与えることはないので、授乳中の患者には問題ありません。またインフルエンザワクチン接種による死亡率の低下、発症率の低下も報告されています(図8)。

【インフルエンザの合併症】

 インフルエンザが重症化すると、小児ではインフルエンザ脳症、高齢者では細菌性肺炎などの合併症を発症する可能性があるため、注意が必要です。インフルエンザ脳症は、意識障害やけいれん、嘔吐、頭痛、異常行動などが出現し、悪化した場合には脳障害や多臓器不全から死亡することがあります。脳症は小児に多くみられ、特に1~2歳に集中しています。また抵抗力、免疫力が低下した高齢者がインフルエンザを発症すると、肺炎を合併することが多くなります。なかでもインフルエンザ流行時の肺炎の原因で最も多いのは肺炎球菌です(図9)。

【肺炎と肺炎の予防】

 近年肺炎による死亡者が増加しており、これまで死因の4位(1位・悪性新生物、2位・心疾患、3位・脳血管疾患、4位・肺炎)でしたが、平成23年には肺炎が死因の3位となっています(図10)。また市中肺炎の入院患者は、65歳以上が大多数を占めます。このうち高齢者の肺炎の原因で最も多いのは肺炎球菌(肺炎の原因の約40%)ですが、この肺炎球菌にはワクチン(1回接種で約5年間は有効です(対象は65歳以上))があり、かなりの予防効果を持っております。また2014年から65歳、70歳、75歳、80歳、85歳、90歳、95歳および100歳以上の方に公費でワクチン接種が行われることになりました(図11)。

平沼クリニック 院長 大畑 充

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