喫煙の害・受動喫煙の防止(第104回院内勉強会 平成27年9月17日 担当:大畑)より
今回は毎月行っている職員の院内勉強会でお話した「喫煙の害・受動喫煙の防止」について、まとめてみました。
1.労働安全衛生法の改正(平成26年6月25日)が行われ、下記に内容が必須となりました。
1)ストレスチェック制度の創設(平成27年12月1日から開始)
2)受動喫煙防止対策の推進
労働者の受動喫煙防止のため、事業者及び事業場の実情に応じ、適切な措置を講ずる
ことが、努力義務となる。
WHO:喫煙・受動喫煙が、世界的規模で健康、社会、経済及び環境に及ぼす破壊的な
影響について、・・・死亡、疾病及び障害を引き起こすことが明確に証明された。
2.成人喫煙率の推移
現在習慣的に喫煙している者の割合は、19.3%です。性別にみると、男性32.2%、 女性8.2%であり、男女ともに10年間で減少傾向にあります(下図)。
喫煙習慣者の年次推移(性・年齢別)(成人喫煙率(厚生労働省国民健康栄養 調査)より)
3.たばこの煙
たばこの煙には主流煙、副流煙、呼出煙があります。このうち副流煙と呼出煙の部が受動喫煙であり、有害物質の発生は主流煙より、副流煙の多く含まれます。
1)主流煙:たばこ自体やフィルターを通過して口腔内に達する煙
2)副流煙:点火部から立ち昇る煙
3)呼出煙:吸い込んだ主流煙が、喫煙者から吐き出された煙、呼出煙の害は喫煙後
約30分間持続する。
4.たばこの害
たばこの煙の中には、4,000種類の化学物質が含まれ、そのうちニコチン、タール、一酸化炭素など、200種類以上の有害物質が含まれています。さらにその中には63種類の発がん物質も含まれています。有害物質は主流煙より、副流煙により多く含まれています。
またたばこの煙は微小粒子状物質(PM 2.5)の発生源であり、花粉の30分の1の大きさであるため、直径0.2mmの肺胞まで到達します。たばこを吸える喫茶店、居酒屋は北京の最悪時の濃度と変わらず、緊急避難すべきレベルです。フィルターを介せずに周囲に広がる副流煙に多く、中国から飛来するPM 2.5よりも受動喫煙の影響の方が大きいとかんがえられています。さらに呼出煙からもPM 2.5は発生します。
①ニコチン:血管収縮作用、依存性薬物、中枢神経興奮・抑制作用
ニコチンは大脳の快楽中枢に働いて快感をもたらしますが、この快感を求めて喫煙を
続けていくと脳に変化が起こり、今度は喫煙していないと、調子が悪くなる、いわゆる
タバコ依存につながる。その他にも、消化器系では胃の働きの低下、心臓・血管系に対
しては急性作用があり、血圧上昇、抹消血管の収縮などの影響を及ぼす。
②タール:たばこの煙の粒子相の総称で、発ガン作用がある。
③一酸化炭素:慢性的一酸化炭素中毒→全身的な酸素欠乏→心臓への負担
※ニコチンには依存性があるが、発がん性は無い。低タール/低ニコチンタバコには
健康上の利益は無く、低タールたばこに用いられている有孔フィルターでは、主流煙中の
有害物質は希釈されて減るが、副流煙中ではかえって増加する。
※喫煙男性は、非喫煙者に比べて肺がんによる死亡率が約4.5倍高く、喫煙はWHOにおい
て、発がん評価分類でグループ1(人間に対して発がん性あり、十分な証拠がある)に分類
される。
※主流煙と比べた副流煙中の有害物質
ニコチン 2.8倍
タール 3.4倍
一酸化炭素 4.7倍
アンモニア 46.3
下図は、喫煙者と非喫煙者の肺の実物です。喫煙者の肺は明らかに黒色で、非喫煙者の肺の色調と異なることがわかります。
5.喫煙と肺癌
日本人おける死亡原因は現在がんが1位、心臓病が2位、肺炎が3位、脳卒中が4位です(下図)。そのうち、がんの死亡者数は肺癌が1位となっています(下図)。喫煙は肺がんの大きなリスク要因です。欧米では、喫煙者の肺がんリスクは、非喫煙者の20倍以上とされているが、日本人を対象とした研究(2008年)では、喫煙者の肺がんリスクは男性で4.5倍、女性で4.2倍という結果でした(International Journal of Cancer 2002年)。
下記の図のごとく、たばこを吸わない人、やめた人、吸う人別に、その後平均7.8年間の肺癌発生率を比べた結果、たばこを吸う人の肺がん発生率は吸わない人に比べ、男性では4.5倍、女性では4.2倍でした。またやめた人は吸わない人に比べ、男性では2.2倍、女性では3.7倍でした。
6.その他の害
①心血管疾患:狭心症、心筋梗塞、動脈硬化など
②がん:喉頭がん(32.5倍)、口腔・咽頭のがん(3.0倍)、膀胱がん(1.6倍)、
食道がん(2.2倍)、胃がん(1.4倍)、膵がん(1.6倍)、肝がん(3.1倍)
③呼吸器疾患:COPD(慢性閉塞性肺疾患)、気管支喘息など
④脳卒中:海外の研究で、副流煙で脳卒中のリスクが30%上昇したとの報告がある。
(Malek AM, et al. Am J Prev Med.2015 Jul 16)
7.受動喫煙の害
平山らは日本で行った疫学調査で、受動喫煙による害を報告しています。これによると、下記の図のごとく、喫煙者の夫の妻(非喫煙者)の肺癌死亡率は夫が喫煙しない場合を1とすると、夫が一日1本から19本の喫煙をする場合には1.5倍、20本以上喫煙する場合には1.91倍になると報告されています。また受動喫煙により、副鼻腔癌、虚血性心疾患の罹患率が上昇し、小児の場合には母が喫煙者の場合、喘息や気管支炎の発現頻度が増すことが報告されています。
8.禁煙の効果
喫煙を続ける人の寿命は約10年短くなると考えられています。これは禁煙することによって、改善する事が出来ます(下図参照)。
皆さん、ご自身のため、家族のために禁煙しましょう!