『生活習慣の改善で、目指そう健康で長生き!』 (平成25年3月9日 平成会総会記念講演から)

 今年度の平成会の年間テーマは「生活習慣の改善で、目指そう健康で長生き!」です。
長生きは誰しも望むことですが、可能な限り健康な状態で長生きしたいものです。我が国の死亡原因を見ますと、1位が悪性新生物(癌)、2位が心疾患、3位が肺炎、4位が脳血管疾患です(図1)。  

 

 つまり健康を脅かす最たるものは、癌、肺炎および心血管や脳血管疾患の原因となる生活習慣病であると言うことができます(図2)。癌は検診による早期発見・早期治療が最も有効で、肺炎も肺炎球菌ワクチンなどの有効性が報告されています。同様に重要なのが、死因の約3分の1を占める生活習慣病の予防であり、これには生活習慣の改善が最も有効です。また健康という意味では身体のみではなく心の健康も大切で、うつ病などによる自殺は年間3万人を超え、交通事故による死亡者数(4,411人)の約7倍となっており、心のケア―が大切であり、早期に発見し、専門家への紹介が重要と思います。


 生活習慣病とは、生活習慣が原因となって発症する病気のことです。代表的なものは肥満、高血圧、脂質異常症、糖尿病です。これら生活習慣病はその疾患をいくつも同時に合併していますと、狭心症や心筋梗塞などの冠動脈疾患の発症の危険性が増加します。生活習慣病が全くない人の危険を1としますと、生活習慣病を4つすべて合併している方はなんと危険は30倍以上となります(図3)。 

 

 肥満はBMI(=体重(kg)/(身長(m)×身長(m)))が25以上の場合を示し、これに肥満に伴う健康障害を合併した場合に「肥満症」といいます(図4)。肥満の予防は、食事、運動、禁煙が重要です(図5)。

     

 高血圧は収縮期血圧(いわゆる「上の血圧」)140mmHg以上あるいは拡張期血圧(いわゆる「下の血圧」)90mmHg以上の場合であり(図6)、その予防は、①食塩制限(目標1日6g未満)、②食塩以外の栄養素(野菜・果物・魚を積極的に摂取、コレステロ-ルを控える)、③適正体重の維持(目標BMI 25未満)、運動(中等度の有酸素運動を毎日30分以上が目標)、④節酒(エタノール換算で男性20~30mL/日、女性10~20mL/日以下)、⑤禁煙であり、これらで改善しない場合には、投薬を受けて血圧をコントロールすることが必要です。高齢者は140/90mmHg未満、若年・中年者は130/85mmHg未満、糖尿病・腎疾患患者は130/80mmHg未満を目標とします。

                          

 脂質異常症はLDLコレステロール(悪玉コレステロール)が140mg/dl以上、HDLコレステロール(善玉コレステロール)が40mg/dl未満、中性脂肪(トリグリセリド)が150mg/dl以上の場合で、予防は食事と運動です。食事療法は①中性脂肪を増やす糖質、アルコールの取り過ぎを控えること。②コレステロールの多い食品(卵、レバー、魚卵、乳製品など)を控える。③コレステロールの吸収を抑制する食物繊維の多い食品(緑黄色野菜、海藻類、キノコ、大豆、イモ類)を多く摂取する。④コレステロールや中性脂肪を低下させる食材(青魚、大豆製品など)を多く取る、ことです。これらと共に、必要な場合には合併している疾患や危険因子を参考に、目標値まで下げることが重要です(図7)。

        

 糖尿病患者は現在700万人を超え、予備軍まで含めますと1,600万人を超えると推測され、1955年当時と比較すると、なんと30倍以上に増加し、まさに国民病と考えられます。その予防はやはり食事と運動につきます。食事療法は①適正カロリーを計算して、そのカロリーを目標とする。②野菜を多く取り、決まった時間に一日3食取る。 ③甘いのも、脂っこいもの、アルコールは控えめ。④1人分ずつ取り分けて食べ、多い時には残す。⑤早食いを避ける(早食いをするとインスルンの分泌が間に合わず、血糖が高くなる)。⑥ 亜鉛(インスリンを作るために必要)、アディポネクチン(2型糖尿病の予防に役立つと考えられている)を増やすマグネシウムや海藻、青魚、大豆と取る、ことです。さらに合併症の予防のためにコントロールが不良であれば薬剤を併用し、目標の血糖値まで下げることが重要です(図8)。 

    
 アメリカの学者・ブロスローは健康習慣として7つ要素を選び、それを実施している数が多い人ほど疾病の罹患が少なく、寿命も長かったことを明らかにしました(図9)。これは疾病予防には、休養、食生活、運動、喫煙、飲酒などの生活習慣に対する手法が有効であることを示唆しています。
【ブロスローの7つの健康習慣】
 ①適正な睡眠時間 ②喫煙しない ③適正体重を維持する ④過度の飲酒をしない
 ⑤定期的に激しい運動をする ⑥朝食を毎日食べる ⑦間食しない

 

 

 ブロスローの7つの健康習慣を実践し、「健康で長生き」を目指しましょう!    

            平成25年3月9日 平沼クリニック院長 大畑 充

カテゴリー: 医療全般 | コメントをどうぞ

『インフルエンザと今年流行の肺炎の話』(平成会講演・平成24年12月1日から)

1.2011年~2012年のインフルエンザの特徴:

 2011年~2012年度のインフルエンザ患者の報告数は約1,600万人にのぼり、過去10年間で2番目の流行でした。これまで流行していたAソ連型(H1N1)、新型インフルエンザと言われたH1N1pdm2009はほとんど流行せず、A香港型(H3N2)およびB型が流行しました(図1)。また2009年に大流行したH1N1pdm209については、感染はほとんど見られず、今後消失していく可能性もあると考えられております。

 2.インフルエンザと風邪の違いは?

 インフルエンザと通常の風邪の大きな違いは、インフルエンザは発病が突然で、高熱、頭痛や全身の痛みを伴い、いわゆる風邪症状(のどの痛み、鼻水、咳や痰など)はこの後に出現してくることが多いという点です(図2)。また比較的消化器症状(下痢や嘔吐など)を伴うことも珍しくありません。感染は咳などの飛沫感染や接触感染で、潜伏期は1~3日ですが、感染した患者からのウイルスの排出は3日目が最も多く、7日までは排出の可能性があります。大多数の人は特に治療を行わなくても、1~2週間で自然治癒しますが、抗インフルエンザ薬の投与により、発熱期間は短縮し、重症化も予防されることがわかっています。症状はA型の方がB型に比べて強いことが多く、B型の方が薬が効きにくいといわれています。流行期間は11月~4月ですが、新型インフルエンザが発生して以来、小規模ながら、1年中発生しています。

 3.インフルエンザの種類

 インフルエンザにはA型、B型、C型の3種類があります。このうちB型とC型は1種類ですが、A型は、ウイルス遺伝子の表面にある赤血球凝集素(HA:haemagglutinin)とノイラミニダーゼ(NA:neuraminidase)という糖蛋白(人間の指紋のようなものと思って下さい)の組み合わせによって、数十種類のウイルス亜型が存在します。HAはH1~H16の16種類、NAはN1~N9の9種類あり、これらの組み合わせにより多種類のウイルスの亜型が存在するわけです(図3)。20世紀に流行したのは H1N1(ソ連型), H2N2(アジア型),  H3N2(香港型), H1N1pdm2009(新型と言われたもの)などです。

 4.インフルエンザの診断、治療、予防

1)インフルエンザの診断

 通常インフルエンザの診断は①症状:突然の発症、38℃を超える発熱(高熱を呈さないこともあります)、風邪様症状、頭痛、関節痛などの全身症状、②迅速インフルエンザ診断キット(口や鼻からぬぐい液を採取して15分程度で結果がでます)で行います。しかし感染早期では迅速キットでは検出できない場合もあり、翌日再検査して感染が確定する場合もあります。 

2)インフルエンザの治療・出校・出勤:

 治療は①一般的対症療法(安静と睡眠、水分補給、部屋の保湿と加温、解熱剤(アセトアミノフェンが比較的安全)の投与、風邪様症状に対する投薬)と②抗インフルエンザ薬(経口剤のタミフル、吸入薬のリレンザ(ともに5日間投与)があり、最近は1回の投薬で治療が可能な注射薬のラピアクタ(1回注射のみ)、吸入薬のイナビル(1回の吸入のみ)も使用されています。これらの抗インフルエンザ薬は妊婦にも投薬可能で、授乳者は授乳は2日間中止するのが一般的です。また治療後の出校については、「学校保健安全法施行規則」により、発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日(幼児にあっては3日)を経過するまでとなっており、出勤に関しても同様に指導します。 

3)インフルエンザの予防:

 インフルエンザの予防は帰宅時のうがい、手洗い、流行前のワクチン接種、適度な湿度の保持、十分な休養と睡眠が重要です。妊婦や授乳者へのワクチン接種は、妊娠中にワクチン接種を受けたことによって流産や先天異常の危険性が高くなるという報告はありません。また母乳を介してお子さんに影響を与えることはないので、授乳中の患者には問題ありません 

5.今年流行の肺炎

 近年肺炎による死亡者が増加しており、これまで死因の4位(1位・悪性新生物、2位・心疾患、3位・脳血管疾患、4位・肺炎)でしたが、平成23年には肺炎が死因の3位となっています(図4)。このうち高齢者の肺炎の原因で最も多いのは肺炎球菌(肺炎の原因の約40%)ですが、この肺炎球菌にはワクチン(1回接種で約5年間は有効です(対象は65歳以上))があり、かなりの予防効果を持っております。

 また昨年から今年にかけて、マイコプラズマ肺炎が大流行しています。マイコプラズマ肺炎は肺炎マイコプラズマを病原体とする肺炎で、潜伏期間は2~3週間と長く、症状は発熱、全身倦怠、頭痛などの後、3~5日後より乾性の咳が増強し、解熱後も1か月近く咳が続きます。診断は特異的IgM抗体迅速検出キット、血清抗体価、PCR法などがあります。治療はマクロライド系抗生剤を使用しますが、近年耐性菌も出現してきており、その場合には別の抗生剤の投与も考慮します(図5)。

 (文責)平沼クリニック 院長 大畑 充

 

 

 

 

 

カテゴリー: 医療全般, 感染症のお話し | コメントをどうぞ

『脳梗塞の予防ーかくれ脳梗塞の話ー』(片山先生)平成会講演・平成24年12月1日から

  平成会講演・『脳梗塞の予防ーかくれ脳梗塞の話ー』 片山副院長の講演のスライドの一部を掲載します。

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カテゴリー: 医療全般, 脳のお話し | コメントをどうぞ

『いびき、眠気!それは睡眠時無呼吸症候群かも!?』(平成会講演・平成24年9月8日から)

1.睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome:SAS)とは?:
睡眠中に無呼吸状態(10秒以上の呼吸が停止すること)が1時間あたり5回以上繰り返される病気で、いびきや昼間の眠気、熟睡感がない、起床時の頭痛などの症状を伴います。SASは生活習慣病と密接に関係しており、放置すると心疾患や脳血管疾患などの危険性が高くなり、生命に危険が及ぶことがあります。人口の2~3%程度存在すると言われ、稀な病気ではありません。

2.睡眠時無呼吸症候群の症状
 ①睡眠中の呼吸停止、夜間の覚醒、いびき、熟眠感の欠如
 ②日中の強い眠気、集中力の欠如
 ③起床時の頭痛、インポテンツ など

3.睡眠時無呼吸症候群の原因
 ①肥満者に多い(70~80%)が、痩せている方でも起こる。
 ②舌の付け根や軟口蓋が、気道に落ち込んだり、首の周囲に脂肪が付いたり
   アデノイドや扁桃肥大など。
 ③顔が長く顎が小さい、顎が背中の方へ移動している、首が短いなど。

4.睡眠時無呼吸症候群の診断
 ①おおきなイビキ、起床時の頭痛、夜間の呼吸停止、日中に強い眠気などの症状があって、
   ②呼吸が10秒以上止まっている、または呼吸が止まらなくても呼吸の大きさが著しく低下
        している状態(AHI (Apnea Hypopnea Index:無呼吸低呼吸指数))が7時間睡眠中に30回以上、あるいは1時間当たり5回以上ある場合

 

 

 

 

 

5.睡眠時無呼吸症候群の検査

終夜睡眠ポリグラフにより、1時間あたりの無呼吸・低呼吸を調べて、診断・重症度を評価する。 

 6.睡眠時無呼吸症候群の治療
 1)生活習慣の改善
  ①減量 ②アルコールの節酒 ③精神安定剤・睡眠導入剤の制限 ④禁煙
 2)積極的治療
  ①軽症~中等症⇒スリープスプリント(マウスピース):下あごを前方に移
   動させ、舌根沈下による閉塞を軽くする。これにより、呼吸がしやすく
   なり、いびきも少なくなる。
  ②中等症~重症⇒CPAP療法(経鼻的持続陽圧呼吸療法(nCPAP:nasal
   continous positive airway pressure):鼻に装着したマスクから空気を送
   りこむことによって、ある一定の圧力を気道にかける方法。

  

                                      平成24年9月8日
                                     (文責) 平沼クリニック 大畑 充

カテゴリー: 医療全般, 生活習慣病のお話し | コメントをどうぞ

「健康は宝なり、正しい知識と工夫で健康づくり!」(平成会講演・平成24年3月3日から)

    人間、望むことは多いのですが、おそらく人生で最も大切なものの一つが「健康」ではないでしょうか?色々と行いたいことはありますが、健康でなければできないことが多いものです。そういった意味ではまさに「健康は宝」です。それでは、「健康である」というのは一体どういうことでしょうか?健康の定義は様々にありますが、世界保健機構(WHO)の憲章では、「健康とは、身体的、精神的ならびに社会的に完全に良好な状態にあることであり、単に病気や虚弱ではないことにとどまるものではない。到達しうる最高度の健康を享受することは、人種、宗教、政治的信念、社会・経済的条件のいかんにかかわらず、全ての人類の基本的権利の一つである」ですが、少し硬く、難しい言葉です。この定義をさら広げた概念で1961年にアメリカの公衆衛生学の権威・ハルバート・ダン博士提唱したのが、「ハイレベルウェルネス」で「輝くように生き生きしている状態」と定義しました。事実、米国疫学学会の発表では、自分は健康だと前向きに考えて、毎日を送っている人ほど、いきいきと、元気で長生きをしていることが明らかとなりました(図1)。つまり健康とは心も身体も健やかで、楽しく暮らせるということだと考えます。    

    健康を守るためには、健康に対する正しい知識と、健康を維持するための工夫が必要ですが、その健康を脅かすものには(1)身体の健康を脅かすもの(①生活習慣病(メタボリックシンドローム⇒心血管・脳血管疾患)、②がん、③その他の病気)と、(2)心の健康を脅かすもの(うつ病などで、自殺者は年間3万人以上で交通事故死より多い)があります。今回はこの中の生活習慣病の最たるものである、高血圧、糖尿病、脂質異常症(高脂血症)の治療に注目しました。生活習慣病の中の病気が1つも無い方の冠動脈疾患の危険性を1.0としますと、生活習慣病がいくつか合併すると、図2のように冠動脈疾患の危険性は増加します(図2)。

    各疾患の治療目標を図に示します。高血圧は九州大学による久山町調査では、140/90mmHgを超えると脳卒中の危険性が急速に増加すると報告しています。現在の高血圧の治療目標は図3の通りです(図3)。  

   また糖尿病の治療目標は日本糖尿病学会の基準がありますが(図4)、HbA1cを低下させると、微小血管の動脈硬化にはかなり予防効果がありますが、心血管・脳血管疾患の予防には十分ではなく、そのためには単純にHbA1cを低下させるだけではなく、同時に血糖値の変動幅を少なくし、低血糖を予防することが重要であるという考え方も提唱されてきています。またこれまでHbA1c値は現在日本糖尿病学会(JDS)の基準値で示しておりますが、2012年4月1日から、国際基準値(NGSP)へと変更となります。これに伴って現在のHbA1cの値に約0.4%を加えた値が国際基準値となります。  

    脂質異常症(高脂血症)の治療の目標は、基本的には図5に示すように各疾患の既往・危険因子合併によって、異なります。LDL値は下記の図5を目標として、HDL値は40mg/dl以上、中性脂肪値は150mg/dl以下を目標とします(図5)。また最近、動脈硬化を進める悪玉LDL値と動脈硬化を予防する善玉HDL値の比も注目されており、合併症の無い方はLDL/HDL比は2.0以下、冠動脈疾患、高血圧、糖尿病などを合併する場合にはLDL/HDL比は1.5が望ましいとの考え方もあります。

   これまでの生活習慣を見直して1に適度な運動、2に食事に気をつけ、3に適量の飲酒と禁煙、さらに必要な場合には薬による治療で、健康的な生活を送りましょう!そして心の持ち方も健康には重要です。 平成24年3月3日 平沼クリニック院長 大畑 充

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                    

                     平沼クリニック院長 大畑 充

カテゴリー: 生活習慣病のお話し | コメントをどうぞ