冬に大流行!「ノロウイルス」よる感染性胃腸炎

【感染性胃腸炎とは?】
感染性胃腸炎は、ウイルスや細菌の感染によって、嘔気・嘔吐、下痢、腹痛、発熱などの症状を呈する感染症です。原因はノロウイルス、ロタウイルス、エンテロウイルスなどのウイルスや、サルモネラ、腸炎ビブリオ、病原性大腸菌、キャンピロバクター、ブドウ球菌などの細菌の感染です。
夏には細菌性のものが多く見られますが、秋から春、特に冬の感染性胃腸炎はウイルス性、その中でもノロウイルスによるものがほとんどです。食中毒は夏に多いと思われがちですが、冬にも大流行しています。ノロウイルスによる感染性胃腸炎は、食品を介して感染する食中毒の形と食品を介さないで感染(人や食品を介しての感染)する場合とがあります。平成21 年度の食中毒発生状況によると、ノロウイルスによる食中毒は、事件数では総事件数1,048 件のうち288件(27.5%)、患者数では総患者数20,249 名のうち10,874 名(53.7%)となっています。食中毒の病因物質別にみると、患者数では第1位となっています。また我が国における月別の発生状況をみると、一年を通して発生はみられますが11月くらいから発生件数は増加しはじめ、12 月~翌年1月が発生のピークになる傾向があります。

【ノロウイルスとは?】
ノロウイルスは1968 年にアメリカオハイオ州のノーウオ―クで、集団発生した食中毒の患者さんから発見されたウイルスです。小さな球形をしたウイルスで、その大きさはわずか38 ナノメートル(ナノは1mm の100 万分の一)という小さなもので、通常の顕微鏡では見えません。またこのウイルスは人間の体内に入ると腸管内で大量に増殖しますが、人体以外では増殖しません。
ノロウイルスは、遺伝子によって、大きくグループⅠとⅡに分けられ、さらにクループⅠは14の遺伝子型に、グループⅡは17 の遺伝子型に分けられます。

【ノロウイルスの感染経路】
ノロウイルスの感染経路はほとんどが経口感染(口から体内に入って感染)です。このウイルスは汚染された食品(主に生の貝類)や、感染した患者が吐いたものや便の中に大量に含まれています(下痢便1g 中に数百から千個のウイルスが検出、吐物の中には100 個程度のウイルスが検出)。感染性が強く、数百個のウイルスを口にいれるだけで感染すると考えられています。東京都健康安全研究センターでの実験では、吐物を1m の高さから落下させると半径2m 程度まで飛散すること、80cm の高さから落下させるとウイルスを含んだ飛散粒子は1時間後も空気中から検出されたと報告しています。
現在のところ、感染経路は以下のように考えられています。

①ウイルスに汚染された貝類などを、生あるいは十分に加熱しないで食べた場合
②調理に使用した器具がウイルスに汚染されていたり、感染した人が食品を触ったりすることによって、ウイルスの汚染された食品を食べた場合
③感染者の吐物や便を触ることによって感染したり、これらが消毒されないまま長く留まって空気中に飛んで、これを吸い込んで感染する場合

【ノロウイルス感染の症状】
感染すると1~2日で発症します(もちろん発病しないこともあります)。主な症状は嘔気・嘔吐、下痢、腹痛、発熱などで、発熱は軽度のことが多いようです。症状は通常2~3日で改善します。下痢や嘔吐により急激に水分を失いますので、高齢者や乳幼児では脱水症状に注意が必要です。

【ノロウイルス感染の診断】
臨床症状~診断することがほとんどです。現在のところウイルスの培養ができないので、便を採取してウイルスとの反応みる迅速診断キット(イムノクロマト法:15~20 分で診断)や遺伝子を検出する方法(PCR 法)などがあります。ただし保険では認めていらず、検査は自費となります。

【ノロウイルス感染の治療】
ノロウイルスに効果のある抗ウイルス薬は残念ながらありません。主な治療は市販のイオン飲料などで十分な水分を補給することです。嘔吐が強く水分が取れない場合には受診して点滴などが必要です。下痢止めは体内にウイルスを留まらせ、回復を遅らせる可能性があるため、なるべくは使用しません。回復してからもしばらくは患者の便からはウイルスは検出されます。

【ノロウイルス感染の予防】
インフルエンザウイルスとは異なり、残念ながらアルコール消毒では死滅しません。消毒には薄めた市販の塩素系漂白剤(通常は5 から10%次亜塩素酸ナトリウムで、50 倍から100 倍に薄めて使用)を使用します。吐物や便を触るときには手袋を使用し、吐物のついた場祖は塩素系漂白剤をつけたペーパータオルをかぶせて消毒します。日常の予防方法としては、食事前やトイレの後には、石鹸でしっかりと手を洗うことが重要(石鹸でウイルスが死滅するわけではありませんが、洗い流すことが重要)です。また食品中のウイルスは85℃以上で1分間で死滅するので、加熱して食べることです。また吐物や便の処理は①使い捨ての手袋とマスクを着用する。②ペーパータオルで取り除き、ビニール袋にいれて処分する。③残った吐物や便の上にペーパータオルをかぶせて、その上から前記の塩素系漂白剤を浸るようにかけて、汚染部分を拡大しないようにしてペーパータオルでよく拭くこと。④ウイルスは乾燥すると空気中に飛散し、ここから感染する可能性があるので、吐物や便を乾燥させないこと、が重要です。

月別事件数の年次推移(厚生労働省:ノロウイルスに関するQ&Aより)

月別事件数の年次推移

文責 大畑 充

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インフルエンザの動向とその対策

今年もまたインフルエンザの流行の時期が近づいてきました。1968 年の香港型インフルエンザの流行以来、昨年は40 年ぶりに新型のインフルエンザが世界的に大流行し、ワクチン接種、治療も含めて大混乱をきたしました。この新型ンフルエンザは、ヒト型、トリ型、北米のブタ型及びユーラシアのブタ型の4種類の遺伝子を有する新型ウイルス(A型(H1N1))であり、人類がいまだかつて経験したことのない新しいインフルエンザウイルスだったのです。昨年の流行から言えることは、確かに冬季にインフルエンザは多いのですが、新型インフルエンザに関しては1年中発生するということです。今回はこの大流行した新型インフルエンザの特徴について総括し、またインフルエンザ全般に対するお話をしたいと思います。

【昨年度大流行した新型インフルエンザの特徴】
1.感染力は比較的強い(暴露された人の中で感染した人の割合は、季節性では5~15%、新型では22~33%)。
2.若年者の感染が多い。
3.感染経路は主に飛沫感染であり、咳やくしゃみをする感染者の1m以内にいると気道感染する危険性がある。
4.潜伏期は1~7 日(多くは1~4 日)、感染性は発症する1 日前から発症後7 日までが多い。大部分は軽症で1週間で回復する。
5.インフルエンザウイルス迅速検査によるA 型陽性率は18~67%と低い。
6.季節性では高齢者の死亡が多いが、新型では基礎疾患(糖尿病、気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患、心病)を有する患者や妊婦、乳幼児に重症者が多い。
7.死亡率は季節性の0.1%に比べて同等かそれ以下である。また日本は世界の中で圧倒 的に死亡率が低い。

【新型インフルエンザの各国の死亡率と日本の死亡率の低さの要因】

各国の新型インフルエンザの死亡率

日本の新型インフルエンザ死亡率:世界で圧倒的に低い!
・人口10 万人に対し0.16(62.5 万人に一人)
・我が国の推計患者2,100 万人中171 名(12 万人に一人)
⇒要因①早期に抗インフルエンザ薬による治療が行われたこと(他の国では重症化してから投与された例が多い)。
②国民皆保険などの医療制度の良さ
③手洗い、マスク着用などの予防策を、きちんと実行した(国民の意識の高さ)。
④学級閉鎖の効果

【インフルエンザとは?】

インフルエンザは風邪の症状と似ていますが、風邪に比べて急速に発症する 38℃以上の発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛や胃腸症状などの全身症状が出現するのが特徴です。感染は咳などの飛沫感染や接触感染で、潜伏期は1~3日ですが、感染した患者からのウイルスの排出は3日目が最も多く、7日までは排出の可能性があります。大多数の人は特に治療を行わなくても、1~2週間で自然治癒します。症状は A型の方が B型に比べて強いことが多く、 B型の方が薬が効きにくいといわれています。流行期間は 11月~4月です。昨年大流行した新型インフルエンザは A型インフルエンザの一種で、ウイルスの遺伝子が変異したものです。通常のインフルエンザと同様の症状ですが、今までに人類が感染したことのない新しいタイプのウイルスで、誰も免疫を持っていないウイルスであったため世界的に大流行したのです。さらに 1年中発生しており、今までの常識とは随分と異なり、夏でもインフルエンザに罹る可能性があります。

【インフルエンザの症状】

主な症状は、これまでのインフルエンザも新型も突然の高熱やだるさ、全身の筋肉痛や頭痛、食欲不振、咳、鼻水、吐き気、のどの痛み、下痢などです。新型は通常の季節型に比べて、下痢・嘔吐がやや多い傾向にあると言われています。

【インフルエンザの治療】

通常の季節型インフルエンザも新型も基本的治療は同じで、下記のように一般療法、対症療法、抗ウイルス薬の投与を行います。健康な方であれば、一般療法や対症療法と自宅療養で十分な場合が多いのですが、合併症を持っている患者さんや妊婦さんは積極的に抗インフルエンザ薬を投与するのが良いと考えられています。重症化した場合には入院加療が必要となります。

1)一般療法:
①安静・十分な睡眠
②部屋の加湿 (60-70%)、保温 (18-20度)
③発熱に対する氷冷、脱水予防(水分補給,補液)
④うがい(咽頭上皮細胞に付着したウイルスを取り除くためとウイルスの感染を助ける病原細菌を付着させないため )

2)対症療法:
①解熱・鎮痛薬(小児のアスピリンなどサリチル酸系解熱鎮痛薬は禁忌、また脳症・脳炎を重症化させることからボルタレン・ポンタールは禁忌):アセトアミノフェンが比較的安全
②去痰薬・抗炎症薬・気管支拡張剤

3)抗インフルエンザ薬:タミフル、リレンザの投与。新薬のイナビル(吸入薬で 1回吸入で治療終了)およびラピアクタ(注射薬で、1回注射するのみで治療終了)。

【インフルエンザの予防】

感染予防にはワクチンが最も有効です。今年度のインフルエンザのワクチンはこれまでの A型インフルエンザ(A型香港 (A/H3N2亜系)と B型インフルエンザとともに昨年世界的に大流行した新型インフルエンザ(A /H1N1)の3種類の株からなり三価ワクチンが開発されています。10月から予防接種が開始され、料金は各市町村、医療機関で異なります。予防効果はおよそ 5ヶ月間ですので、11月下旬までに接種することを勧めます。ワクチンは妊婦は妊娠14週以降であれば可能、授乳中の患者には問題ありません。

一般的な予防は、手洗い、うがい、マスクです。手洗いやうがいは咽頭粘膜や手指など身体に付着したインフルエンザウイルスを物理的に除去します。具体的には、手洗いは石鹸を泡立てて 30秒以上行い、接触したウイルスを洗い流します。うがいは口の中をまず2回ゆすいで、その後のどの奥まで 2回うがいします。インフルエンザウイルスは飛沫感染(感染者の咳やくしゃみなどによって放たれる飛沫や唾液、鼻水などの微粒子によって感染すること)であり、通常はサージカルマスクなどである程度の予防は可能です(布やカーゼでは予防効果は減ります)。また必要なければ人ごみや外出を控えること、十分な休養を取ることも大切です。

文責:大畑 充

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ピロリ菌と胃の話-逆流性食道炎

1.ピロリ菌と胃の話:

胃潰瘍や十二指腸潰瘍は以前はストレスや鎮痛剤などが主な原因とされてきましたが、最近では潰瘍の発病や再発の大きな要因としてヘリコバクタ・ピロリ菌(以下ピロリ菌)が注目されています。

ピ ロリ菌は大きさが約1ミリの250分の1程度の細菌で、らせん状の形をし、4~8本のべん毛を持っています。通常の細菌は胃液の中の胃酸のため生きている ことは出来ません。しかしこのピロリ菌は「ウレアーゼ」とうい酵素を持ち、胃に中にある尿素という物質からアンモニアを産生します。アンモニアはアルカリ 性なので、胃酸を中和して自分の周囲を中性に近い状態にして生き延びているのです。ピロリ菌はアンモニアを産生したり、様々な有害物質を産生して胃粘膜を 傷害します。

ピロリ菌の感染率は年代とともに上昇し、20歳では20%、40歳では40%、60歳以上では約70~80%といわれていま す。また発展途上国で高く、日本の感染率は先進国の中ではかなり高率です。感染経路は経口感染がほとんどで、口から口への感染(食べ物を子供に、口移しで 食べさせる時の感染が多い)が重要な感染源です。また井戸水からの感染や、ゴキブリなどが媒介する可能性もあります。

現在ピロリ菌は胃潰瘍・十二指腸潰瘍の発病・再発とは明らかに関係していることが判っていますが、さらに胃癌や過形成ポリープとの関連も指摘されています。

実際にピロリ菌感染者はピロリ菌非感染者に比べて胃癌の発病率は約2.7倍との報告もありますし、またピロリ菌の除菌により胃のポリープが消失したという報告も沢山あります。

ピロリ菌が感染しているかどうかは内視鏡で行う検査(胃の中の組織を取って、検査液で反応をみたり、顕微鏡で確認する)や尿素呼気反応(尿素の入った液を服用して、呼気中にピロリ菌と反応した物質を測定する方法)、血液や尿の抗体を測定するなど様々な方法があります。

胃 潰瘍・十二指腸潰瘍の患者さんでピロリ菌が検出されたら除菌すべきです。除菌は胃酸を抑える薬(プロトンポンプ阻害剤)1種類と抗生剤を2種類(アモキシ リン、クラリスロマイシン)を1週間服用するのみで、除菌の成功率はおおよそ70~80%程度です。1回目の除菌で除菌できなかった場合には別の方法(プ ロトンポンプ阻害剤1種類と、アモキシリン、メトロニダゾールを1週間服用)があり、この方法での除菌率は約90%程度です。一度除菌されれば再感染は極 めて少なく、約1~2%程度の再感染率と報告されていますが、成人になってからの感染はあまり問題にならないと考えられています。

除菌の副作用は発疹、下痢、味覚障害、肝障害などですが、重篤なものはそれほど多くはありません。除菌が成功した場合には潰瘍の再発率は極めて低くなり、また胃癌の発生を抑えると考えられています。

2.食道疾患―比較的多い「胸やけ」―逆流性食道炎:

食道疾患で比較的多いのが逆流性食道炎です。これは胃液が食道に逆流することによって起こる食道の炎症(ただれ)で、主な症状は胸やけ、胃もたれ、胸の痛み、喉の不快感などです。また物を飲み込んだときにつかえる感じがする場合もあります。

胸やけが1ヶ月以上続くようであれば可能性は高いと考えられます。症状は就寝前の飲食、食べ過ぎ、早食い、脂っこいものを食べた時に起こりやすくなります。

逆 流性食道炎は問診(患者さんからの話)と診察でかなりの確率で診断できますが、一定の年齢以上の方ではやはり食道癌などを否定するためにも、また診断を確 定するためにも胃内視鏡検査(胃バリウム検査では確認が難しい)が必要です。症状は胃酸を抑える薬剤(とくにプロトンポンプ阻害剤)で速やかに改善します が、薬をやめると症状が再発しやすい病気です。

予防は、

①食事習慣の改善:大食い、早食い、食後の就寝を避ける。

②胸焼けをおこしやすい食事を避ける:高脂肪食(フライ、てんぷら、油炒めなど)、甘味食(ケーキ、饅頭など)、酸味の強い果物など。

③生活の注意:食後すぐの横臥、前屈姿勢、強い腹圧のかかる動作(重いものを持ち上げるなど)。

④胸焼けを起こしにくくする就寝姿勢:上半身挙上(ベッドの頭側を高くするなど)、左を下にした睡眠すること、などです。

文責:大畑 充

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脳の動脈硬化の予防

脳梗塞の重要な原因のひとつに動脈硬化があります。高齢化や生活様式(とくに食生活)の欧米化などに伴い,動脈硬化の重症化,若年化が問題視されており,とくにメタボリック症候群と呼ばれる高血圧症,高脂血症,糖尿病,肥満によってその進行は早まります。動脈硬化の初期は自覚症状がないまま潜やかに血管を蝕んでいきます。脳梗塞,心筋梗塞,下肢動脈閉塞,眼底出血などの症状がみられてからでは手遅れです。
動脈硬化の予防には生活習慣の改善が有効で,とくに血圧管理が大切と考えられています。そのためには日常から動脈硬化の早期発見,早期治療を心がける必要があります。

1.脳梗塞にいたる動脈硬化には
・アテローム(粥状)硬化
・細動脈硬化の二つがあります。アテローム硬化では大動脈や頸動脈などの太い血管の内腔に血栓(悪玉コレステロールが一因)が作られ狭くなります。アテローム硬化の程度を知る検査にはキャビや頸動脈エコーがあります。いずれも簡便に短時間で頸部や四肢の血管年齢(血管壁の厚さ,しなやかさ,詰まり具合)が判明します。
細動脈硬化では脳や網膜(眼底)の細い血管が硬くなり,伸縮性が失われ血管閉塞や出血の原因になります。細動脈硬化を知る検査として眼底検査があります。網膜の細い血管を観察でき,また時に眼底出血の有無を確認します。これは脳深部の細い血管の状態を知る手掛かりになります。

2.脳梗塞の前兆として

一過性脳虚血(手足の麻痺やしびれ,呂律不良などが一時的ですぐに回復する脳梗塞の前段階)

かくれ脳梗塞(無症状ですが,脳 CTや MRIの検査で偶然みつかる小さな脳梗塞)に注意する必要があります。とくに一過性脳虚血を経験した 20-40%の人が将来,脳梗塞に進行しますので,できる限り早めの診察,そして予防(薬物療法)が必要です。また,無症状であっても脳梗塞の危険因子(男性 >女性,家族に脳卒中がいる,高血圧,糖尿病,高脂血症,喫煙,肥満,心房細動など)がある場合,定期的に脳の検査( CTまたは MRI)をお勧めします。かくれ脳梗塞が多発すると将来,脳出血や認知症の原因となります。

3.脳梗塞の予防には

・定期的な健康診断
・生活習慣の改善

自分の健康状態(血管年齢など)を把握し,自己管理(血圧測定など)を怠らないように心がける必要があります。同時に禁煙,食生活の工夫,ストレスや過労・睡眠不足をできる限り避ける,便通を良くするなど健康的な日常生活への環境作りも大切です。
残念ながら動脈硬化は 10歳代からはじまり,自覚症状のないまま加齢とともに進行します。メタボはその進行スピードを加速させるので糖尿病,高血圧,高脂血症などの病気の治療とともに共通の基盤である内臓脂肪を減少させることが大切です。
一般に内臓脂肪は比較的容易にエネルギーとして燃焼する特徴があるため,日常の食事や運動を心掛ければ内臓脂肪を減少させることは十分に可能です。現体重またはウェスト周囲径のマイナス 5%を目標に 3~6ヶ月かけて緩やかな減量を継続していきましょう。
メタボにならない秘訣として①バランスの良い食事と腹八分目 ②日常的に運動を継続 ③禁煙④ウェスト日記(体重日記)などおすすめします。
とくに食事日記によって食習慣を確認して問題点(カロリー,脂肪分,塩分など)を具体化するとより効果的です。内臓脂肪がたまりやすい食事(高脂肪食,高ショ糖食,高カロリー食,低線維食)を控えて薄味,お酒も控え目が良いでしょう。
毎日できる運動としてウォーキング(少し早歩き)がおすすめです。習慣的に続けることが重要で1日2割の歩数アップを目安に徐々に増やして1日1万歩を目指しましょう。なるべく乗り物を控えて通勤時間を運動時間として利用しましょう。
ウェスト日記は減量の意識改革と努力継続に役立ちます。ウェスト径の減少に成功すれば,達成感が得られメタボ解消のやる気が高まります。

文責:片山 晃

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インフルエンザとは?

1.普通感冒(かぜ)について:

朝夕は随分と寒くなってきており、かぜも流行ってきています。平沼診療所ではすでにインフルエンザワクチンの接種が開始となりました。今回はインフルエンザとその予防についてお話します。

一般に「かぜ」と呼ばれるものは、かぜ症候群あるいは感冒症候群として総称され、上気道(鼻腔・副鼻腔・口腔・咽頭・喉頭等)に対して急性に発症する炎症性疾患です。通常、成人では年に2~4回、子供は5~9回も罹患すると言われています。症状はのどの痛み、くしゃみ、鼻水、鼻閉、発熱、咳、頭痛、全身倦怠感などで、潜伏期間は通常2~5日です。感染経路はくしゃみや感染者との接触、感染者が使用したタオルなどの生活用品等と考えられています。かぜの原因の80~90%はウイルスで、その他には細菌、マイコプラズマ、クラミジアなどがあります。かぜ症候群の病原ウイルスは下記の表に示しますように200種類以上発見されています。このうち秋と春に多いライノウイルスと冬に多いコロナウイルスによるものが50%以上を占めるといわれています。また冬にはノロウイルスやロタウイルスによる胃腸症状を主とするかぜもよくみられます。これら中でインフルエンザウイルスは、伝染性が強く症状が重いため、しばしば世界的な流行が問題となっています。

かぜ症候群の病原ウイルス

インフルエンザウイルス(A型、B型、C型)

パラインフルエンザウイルス  4型

RSウイルス
1型

アデノウイルス 40型

ライノウイルス 100型以上

コックサッキーウイルス(A群1-24型、B群1-6型)

エコーウイルス 1-34型

コロナウイルス 3型

レオウイルス 3型

2.インフルエンザとは?:

インフルエンザウイルスによる感染症で、症状は風邪と似ています。しかし通常の風邪は鼻汁、咽頭痛、咳などの呼吸器症状が主な症状ですが、インフルエンザはこれらに比べ、比較的急速に発症する38℃以上の発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛や胃腸症状などの全身症状が著明な点が特徴です。軽いものは「かぜ」と区別はできません。38℃以上の発熱があり、「いつもの風邪より身体が辛い」といった症状があれば強く疑います。感染は飛沫感染や接触感染で、潜伏期は1~3日です。大多数の人は特に治療を行わなくても、1-2週間で自然治癒します。症状はA型の方がB型に比べて強いことが多く、B型の方は薬が効きにくいといわれています。流行期間は11月~4月で、前半はA型が多く、後半はB型が多いのが一般的です。日本では2002-2003年にかけて推定約1000万人が罹患しました。致死率は0.05%程度ですが、ほとんどは65歳以上の高齢者です。また小児のインフルエンザ脳炎は年間100~300例発症し、その死亡率は30%と高い。

3.インフルエンザの種類:

インフルエンザウイルスはA、B、Cの3型に分けられますが、A型はさらに数十種類に分類されますが人間界に存在するのはH1N1,
H2N2, H3N2の3つです。B型やC型はそれぞれ1種類のみです。現在世界中で流行しているのは2種類のA型(A型香港(H3N2)、A型ソ連(H1N1))および1種類のB型です。このようにA型が数種類あるため、人によっては1シーズンA型ソ連にかかった後、A型香港にかかったり、A型にかかった後、B型にかかったりすることがあります。インフルエンザウイルスはウイルスそのものが変異を続けるため、数年ごとに大流行をもたらす事になるわけです。10~40年周期では新型ウイルスが出現して世界中に大被害を及ぼしてきました。このような変異のため、毎年流行に合わせてワクチンも作り替えなければならないわけです。同じインフルエンザウイルスの中でもC型ウイルスは変異しにくいため、一度感染すると一生に渡る免疫ができ、あまり怖くないウイルスといえます。しかしA型ウイルスは症状が重い上、変異しやすいため、数年ごとに世界的な大流行をもたらす手強いウイルスですで、これは人のインフルエンザウイルスがアヒルやブタなどに感染して、その体内で遺伝子の組み替えが起こるためだと考えられています。インフルエンザの流行がアジアやロシアから始まるのが多いのも、アジアやロシアではアヒルを飼う農家が多く、アヒルと人のインフルエンザウイルスが混じり合いやすい環境にあるためと考えられています。またインフルエンザウイルスは低温・低湿度の環境を好みます。

ウイルスの型

ウイルスの変化の程度

症状

A型

非常に変化しやすい

最も重い

B型

変化しにくい

重い

C型

非常に変化しにくい

普通

4.診断:

色々な方法(ウイルスの分離や血清抗体価など)がありますが、迅速に診断するためには、迅速キットが最も有用です。通常検体は咽頭や鼻腔から採取しますが、感度は鼻腔の方が高いといわれています。しかしキットの感度は50~80%で、迅速キットで陰性でもインフルエンザの可能性はあるわけです。診断キットは鳥インフルエンザ(H5N1)には役に立ちません。

5.治療:

A型にはアマンタジン(シンメトレル:パーキンソン病の治療薬)も有効ですが耐性や副作用が多くあまり使用されません。日本では、A型、B型の両方に効く、タミフル(飲み薬)、リレンザ(吸入薬)が使用されていますが、発病48時間以内の服用が必要です(タミフルは小児用ドライシロップがありますが1歳未満には使用しない)。しかし欧米諸国では自然に治癒する疾患であり、あまりこれらの薬は使用されていません。さらに薬を服用しても発熱期間が1~2日短縮されるだけというデータもあります。治療には十分な休養と、水分補給が必要です。発熱に対してはインフルエンザ脳炎の危険性を少なくするために解熱剤としてはアセトアミノフェン(カロナールなど)を使用します(15歳未満の小児に対してはアスピリンなどのサリチル酸、ボルタレン、ポンタールは基本的には禁止。成人でも基本的にはアセトアミノフェン(カロナールなど)を使用)。タミフル、リレンザは妊娠中の投与に関しては安全性は確立されておらず、有益性が危険性を上回る場合には投与します。授乳中の患者さんは、乳汁中に薬が移行するので、投薬中は授乳を避けるようにします。リレンザはタミフルに比べ耐性が少なく、タミフル耐性ウイルスにも有効。タミフルやリレンザは鳥インフルエンザにも有効。タミフルの使用期限は5年間。タミフルの耐性出現率は成人では1%程度、小児では5~20%との報告。

6.予防:

ワクチン接種が最も有効です。1回法と2回法では有効性が差がないという報告もありますが、2回法の方が抗体価が高いとの報告もあり、13歳以下の患者や65歳以上の患者、呼吸器疾患・心疾患・糖尿病患者などでは2回法を一応薦めます。ワクチンの効果が現れるまでには約2週間程度かかり、予防効果はおよそ5ヶ月間ですので、可能な限り12月上旬までに接種することを勧めます。報告によるとワクチンは65歳以上の健康な高齢者については約45%の発病を阻止し、約80%に死亡を阻止する効果があったとされています。ワクチンは当然、風邪やSARS、鳥インフルエンザには効果はありません。また感染したら、マスクも有用です(飛沫感染)。外出時にはマスクを利用したり、室内では加湿器などを使ったりして適度な湿度(50~60%)を保ちましょう。ワクチンは不活化ワクチンであり、胎児に影響はないとい考えられており、妊婦は接種不適当者には含まれていませんが、妊婦に対しては十分な調査がなく、妊娠初期には避けること、利益が危険性を上回る場合に接種すべきです。母乳を介してお子さんに影響を与えることはないので、授乳中の患者には問題ありません。また精子への影響はないため、妊娠希望のカップルの男性にも問題はありません。またワクチンによってインフルエンザを発症することはありません。ワクチンは鳥インフルエンザや新型インフルエンザには無効。手洗い・うがいも大切な予防法です。

7.インフルエンザに罹患したら何日休ませるか?:

一般的には発病後3~5日間ウイルスを排出するといわれています。この間患者は感染力があると考えられます。抗インフルエンザ薬の投与により発熱期間は1~2日間短縮されます。学校保険法では「解熱した後、2日間は出席停止」としていますが、職場復帰に関しては定まったものはなく、やはり一般的には解熱後2日間は自宅療養を勧めます。

8.鳥インフルエンザ

鳥インフルエンザ(H5N1)は鳥から人への感染はありますが、今のところ人から人への感染はありません。しかし将来的にはウイルスが変異し、人から人への感染を起こす可能性はあります。現在のところ、診断キットやワクチンは無効ですが、タミフルやリレンザなどと治療薬は有効です。

9. インフルエンザ患者の病室での管理は?

インフルエンザの患者さんが部屋の中にいた場合、患者さんの飛沫(咳やくしゃみと共に出る)の中にインフルエンザウイルスがいる可能性がありますが、基本的にはインフルエンザは飛沫感染であり、飛沫というのは1~2メートル以上は飛びませんし、患者さんがマスクをしていれば飛沫の発生は最小限に抑えられます。また、手指を介した接触感染もありますので、手洗いは重要です。しかし、狭い気密な部屋などでは、比較的長くウイルスが浮遊することもありますので、時々換気をすること、部屋の湿度を適度に保つことなどは意義があります。インフルエンザウイルスは、ほとんどの消毒薬に弱く、十分な湿度があれば生存期間も短いので、通常の清掃で十分だと考えられますが、あきらかな目に見える呼吸器分泌物による汚染がある場合には、通常の消毒薬により消毒しておくほうがよいでしょう。インフルエンザを発症中に使用した衣服にはウイルスが付着していることが予想されますが、これまでの知見ではこれから感染を起こすことはまれだと考えられています。使用後は、通常の洗濯をして日なたに干しておけばウイルスの感染性は消失します。

文責:大畑 充

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