気をつけよう!-食中毒―

夏本番が到来しました。この時期には、食中毒の発生が増加し、食事には注意が必要です。

「食中毒」は汚染された食べ物や有害物質の混じった食べ物よって引き起こされ、主として下痢・腹痛・発熱・嘔吐などの急性胃腸炎症状を起す病気です。厚生労働省の統計によりますと、食中毒の発生数は、7月から9月に最も多いのですが、12月から1月にも比較的多くみられます。また原因食品では、魚介・加工品類が最も多く、肉類、野菜、乳製品などからの感染も多く認められます。一般的に食中毒は飲食店で発生することが多いのですが、一般家庭からの発生も全体の約20%程度を占めます。食中毒の種類は感染性(細菌、ウイルス、寄生虫など)と非感染性(自然毒、化学物質など)に大別されますが、そのほとんどは感染性食中毒です。夏季には細菌性食中毒(カンピロバクター、サルモネラ、腸炎ビブリオなど)が多く、冬季にはウイルス性食中毒(ほとんどはノロウイルス)が多く認められます。

各種細菌性食中毒の特徴

夏に多い代表的な細菌性直中毒の原因は、カンピロバクターでは生の鶏肉や鳥レバーなど、サルモネラでは生の肉類や生卵など、腸炎ビブリオでは魚介類の生食など、病原性大腸菌では菌に汚染された食肉や野菜などです。また従来は冬の最も代表的な食中毒の原因であったノロウイルスは、最近では夏でも発生し、その原因はカキ等の二枚貝の生食などです。

症状は下痢、腹痛、発熱が主症状で、嘔気、嘔吐を伴う事もしばしばです。また病原性大腸菌(O-157)、細菌性赤痢、カンピロバクター、サルモネラなどによる食中毒では血便を伴う事も少なくありません。体温が38℃以上を持続したり、下痢が一日10回以上続いたり血便があったり、脱水、腹痛、嘔吐などの症状が強い場合には重症で、入院加療が必要です。一般的な治療は点滴などで脱水を改善し、整腸剤や抗生剤の投与を行います。強力な下痢止めは病原体の排泄を遅らせるため通常は使用しません。

食中毒は予防が最も大切です。予防には①食品の買い方(肉、魚、野菜は新鮮なものを購入し、賞味期限に注意)、②食品の保存の仕方(買い物から持ち帰ったらすぐに冷蔵庫・冷凍庫に保存)、③料理の下準備(手洗いを行い、野菜はよく水洗いをする。室温解凍はせず、解凍したらすぐ料理する)④料理の仕方(加熱するものは十分加熱する。途中で料理をやめる場合には冷蔵庫へ保存し、再調理では十分加熱する)⑤食事の仕方(手を洗い、料理は長く放置せず、早めに食べる)、⑥残った食品の扱い方(時間がたったら捨てる。暖めなおす時には75℃以上にする)などの注意が必要です。家族内で患者さんは出た場合には、手洗いをきちんと行い、タオルは患者さん専用にして、患者さんは浴槽には入らずシャワーとし、吐物や汚物は適切に処理し、感染をひろげないようにしましょう。

食中毒の症状が出たら、早急に医療機関を受診し治療を受けましょう!

文責:大畑 充

 

 

 

 

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胃と腸のはなし

1.ピロリ菌と胃・十二指腸潰瘍、胃癌:

胃潰瘍や十二指腸潰瘍は以前はストレスや鎮痛剤などが主な原因とされてきましたが、最近では潰瘍の発病や再発の大きな要因としてヘリコバクタ・ピロリ菌(以下ピロリ菌)が注目されています。

ピロリ菌は大きさが約1ミリの250分の1程度の細菌で、らせん状の形をし、4~8本のべん毛を持っています。通常の細菌は胃液の中の胃酸のため生きていることは出来ません。しかしこのピロリ菌は「ウレアーゼ」とうい酵素を持ち、胃に中にある尿素という物質からアンモニアを産生します。アンモニアはアルカリ性なので、胃酸を中和して自分の周囲を中性に近い状態にして生き延びているのです。ピロリ菌はアンモニアを産生したり、様々な有害物質を産生して胃粘膜を傷害します。

ピロリ菌の感染率は年代とともに上昇し、20歳では20%、40歳では40%、60歳以上では約70~80%といわれています。また発展途上国で高く、日本の感染率は先進国の中ではかなり高率です。感染経路は経口感染がほとんどですが、明らかにはされていません。

現在ピロリ菌は胃潰瘍・十二指腸潰瘍の発病・再発とは明らかに関係していることが判っていますが、さらに胃癌やポリープとの関連もある可能性が示されています。欧米ではすでに胃癌の重要な要因の一つにピロリ菌があげられております。また胃ポリープの中にはピロリ菌を駆除(除菌)することで、ポリープが縮小あるいは消失したとの報告もあります。

ピロリ菌が感染しているかどうかは内視鏡で行う検査(胃の中の組織を取って、検査液で反応をみたり、顕微鏡で確認する)や尿素呼気反応(尿素の入った液を服用して、呼気中にピロリ菌と反応した物質を測定する方法)、血液で血清抗体を測定するなど様々な方法があります。胃潰瘍・十二指腸潰瘍の患者さんでピロリ菌が検出されたら除菌をするのが良いと考えられます。

除菌は胃酸を抑える薬(プロトンポンプ阻害剤)1種類と抗生剤を2種類(アモキシリン、クラリスロマイシン)、を1週間服用するだけです。除菌の成功率はおおよそ70~80%程度です。一度除菌されれば再感染は極めて少ないと考えられています。除菌が成功した場合には潰瘍の再発率は極めて低くなります。

2.食道疾患―比較的多い「胸やけ」―逆流性食道炎:

食道疾患で比較的多いのが逆流性食道炎です。これは胃液が食道に逆流することによって起こる食道の炎症(ただれ)で、主な症状は胸やけ、胃もたれ、胸の痛み、喉の不快感などです。また物を飲み込んだときにつかえる感じがする場合もあります。胸やけが1ヶ月以上続くようであれば可能性は高いと考えられます。

症状は就寝前の飲食、食べ過ぎ、早食い、脂っこいものを食べた時に起こりやすくなります。診断は問診(患者さんからの話)と診察でかなりまでつけることができますが、一定の年齢以上の方ではやはり食道癌などを否定するためにも、また診断を確定するためにも胃内視鏡検査(胃バリウム検査では確認が難しい)が必要です。症状は胃酸を抑える薬剤(とくにプロトンポンプ阻害剤)で速やかに改善しますが、薬をやめると症状が再発しやすい病気です。

3.大腸ポリープと大腸癌:

大腸ポリープの多くは小さいうちは腺腫という良性の腫瘍ですが、大きくなると共に癌化する可能性がでてきます。もちろんすべてが癌化するわけではなく、小さいものはそのまま変化しないこともあります。便潜血反応などで陽性の方はポリープの可能性がありますので、かならず大腸精密検査(大腸バリウム検査あるいは大腸内視鏡検査)が必要です。

精密検査でポリープが発見されたら、内視鏡で切除するのが一般的です。癌化しても小さなもので、粘膜の深くまで癌が入り込んでいなければ手術をせずに内視鏡で取りきることも可能です。大腸癌は多くはポリープから進展しますが、一部はポリープを経ずに直接正常粘膜から発生する癌(de Novo癌)があります。

いずれにしろ便潜血検査による大腸癌健診を受けることが大切ですが、もちろんこれですべてが診断できる訳ではありませんので、症状があるようなら直接大腸精密検査を受けてください。

4.機能性消化管疾患:

機能性消化管疾患という病名はあまり聞きなれないと思いますが、一般の患者さんの中ではかなり多い疾患の一つです。

①消化管に由来すると考えられる症状(腹痛、便通異常など)が1年間のうち、12週以上の期間にわたって出現。

②症状を説明するような器質的所見がない。

③症状を説明するような生化学的異常がない。

の3つが重要なポイントですが、通常2週間のうち4回程度このような症状があれば疑います。上腹部が症状の中心の場合には機能性胃腸症(胃痛、胃部不快感、胃もたれ、嘔気など)が考えられ、また下腹部が症状の中心の場合には過敏性結腸症候群(下腹部痛や下痢・便秘などの便通異常)と考えられます。

通常、体重が減ったり、便に血が混じったり、夜間に腹痛で目覚めるようなことはありません。症状から診断は比較的簡単ですが、診断を確定するためには胃・大腸の検査が必要です。これらの疾患はある意味「ストレス病」と考えられており、ストレスや過労で悪化します。日本人(成人)の約10~20%にこのような症状が認められます。治療は各種消化剤、制酸剤、胃腸機能改善薬などで行いますが、症状が強い場合や改善しない場合には精神安定剤や抗うつ剤などを使用することもあります。

以上のように食道、胃・十二指腸、大腸に関する疾患についてお話をしましたが、このような消化器系の疾患はやはり健診を含めた画像検査による早期発見が最も大切です。皆さん是非とも健診は受けてください。

文責:大畑 充

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メタボリックシンドロームって何?

現在、国民の多くは「飽食の時代」と言われるほどの過食と、運動不足に陥っています。このため国をあげて、このメタボリックシンドロームの対策に力を入れています。

メタボリックシンドロームとは?

肥満症や高血圧、高脂血症、糖尿病などの生活習慣病は、それぞれが独立した別の病気ではなく、肥満―特に内臓に脂肪が蓄積した肥満(内臓脂肪型肥満といいます)―が原因であることがわかってきました。このように、内臓脂肪型肥満によって、動脈硬化に由来する様々な病気が引き起こされやすくなった状態を『メタボリックシンドローム』といいます。

メタボリックシンドロームの診断基準

メタボリックシンドロームの診断基準は、

(1)内臓脂肪の蓄積があること:ウエスト径が、男性≧85cm、女性≧90cmであり、かつ

(2)上記(1)に加えて下記の①~③のうち2項目以上を満たす場合(①中性脂肪≧150mg/dlかつ/またはHDLコレステロール<40mg/dl、②収縮期血圧≧130mmHgかつ/または拡張期血圧≧85mmHg、③空腹時血糖≧110mg/dl))です。

上記(1)(2)を満たした場合メタボリックシンドロームと診断します。

メタボリックシンドロームになると何が問題か?

メタボリックシンドロームになると、動脈硬化が極めて進行します。このため、将来的に脳血管疾患(脳梗塞、脳出血など)、心血管疾患(心筋梗塞、狭心症など)、閉塞性動脈硬化症(下肢の動脈が閉塞して下肢の冷感、しびれ、痛みなどを呈する)などを合併しやすくなります。

肥満、高脂血症、高血圧、糖尿病のうち1つの疾患が合併しますと、冠動脈疾患(心筋梗塞や狭心症など)の危険度は全く疾患の無い人の約5倍で、2つの疾患を合併していますと、危険度は約9~10倍、そして3~4つの疾患を合併しますと、なんと危険度は約30倍となります。

メタボリックシンドロームに対する対策

最も大切なことは、メタボリックシンドロームであることの自覚と、それに対する対策として、減量、内臓脂肪の軽減を行う事です。具体的には、食事カロリーを制限(1200~1800カロリー)して、適度な運動を行い、3~6ヶ月かけて体重およびウエスト径を5%程度減量し、必要な場合には様々な疾患の治療を行う事です。

今年のテーマを目標として、メタボリックシンドロームにならないように予防すること、そしてメタボリックシンドロームに当てはまる方は、食事と運動で改善を目指し、必要な場合には適切な治療を受けることです。皆さん、頑張りましょう!

文責:大畑 充

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お酒とうまく付き合う方法

人間とお酒とは人類が始まって以来の長い付き合いです。お酒はうまく付き合えば健康にも役立ちますが、適量を超えて飲酒を続けると、肝臓病や生活習慣病をはじめとして、様々な疾患の原因となったり、アルコール依存症などの問題を呈します。お酒とはうまく付き合っていきましょう。

1.お酒の功罪

【功】適量であればストレスを軽減してリラックスを与える。また動脈硬化を予防する。

食欲増進作用。

【罪】判断力の低下。慢性飲酒では、肝臓をはじめとする様々な臓器を傷害する。またアルコール依存を形成する。

 

2.増加するお酒の消費量:

日本人のお酒の年間消費量は年々増加しています。1965年から1990年までには約2倍に増加しています。欧米では現在減少傾向にあるにも関わらず、日本ではその後も徐々に増え続けています。いわゆる先進国で増え続けているのは日本だけです。また女性の飲酒者が増えてきています。一日5合以上飲酒する「大量飲酒者」数は約250万人存在するといわれております。

 

3.どうして「二日酔い」になるのでしょうか?

ついついお酒を飲み過ぎて、翌日頭痛や吐き気で困った経験は誰にでもあるでしょう。それではどうしてこういった「二日酔い」がおこるのでしょうか?その原因は飲んだアルコールが肝臓で処理されてできる「アセトアルデヒド」という毒性の強い物質のためです。アルコールは体の中に入ると胃や腸で吸収され90%は肝臓へ運ばれます。肝臓に運ばれたアルコールは酵素(アルコール脱水素酵素)で分解されてアセトアルデヒドとなり、この物質が体内に多くなると頭痛や吐き気といった症状が出るわけです。またアルコール自体やアルコール飲料に含まれる添加物も二日酔いに影響しています。

 

4.お酒に強いか弱いかは遺伝子で決まる!

お酒を飲むと顔が赤くなるけれど、結構飲める、という人がいますが、こういう人は

本当に「お酒に強い」と言えるのでしょうか?日本人の中にはお酒を飲んでも全く顔が赤くならない人(A)が約50%います。赤くなるが飲めるという人(B)が約45%、全く飲めず、少しでも飲むと動悸・頭痛・吐き気が出る人(C)が約5%います。この体質は両親からもらった遺伝子で決まります。すでにお話した毒性の強い「アセトアルデヒド」という物質を肝臓で分解してくれる酵素(アルデヒド脱水素酵素2:ALDH2)の働きによって赤くなるかどうかが決まるのです。Aの人は両親から2つともアルデヒドを良く代謝するALDH2の遺伝子を受け継いだ人、Bは片方の遺伝子が代謝の良い遺伝子でもう一方が代謝の悪い遺伝子の人、Cの人は幸か不幸か?2つとも代謝の悪い遺伝子を受け継いだ人です。Aは普通に飲めますが、Cの人は訓練しても飲めるようにはなりません。Bは赤くなるが飲め、さらに鍛錬?によって強くなれます。しかしこのBのタイプの人は飲みすぎるとAのタイプより肝臓を壊しやすいことがわかっています。

 

5.アルコール性肝臓病の進展

アルコール性肝臓病は、アルコール性脂肪肝→アルコール性肝線維症→アルコール性肝硬変と進展していきます。脂肪肝は肝臓内に中性脂肪が大量に貯まった状態で、禁酒によりほとんど完全に治癒します。線維症は、肝臓内に線維が貯留した状態で、飲酒を継続すると肝硬変へ進展しますが、禁酒すると改善します。肝硬変は、肝臓病の末期の状態で、腹水や黄疸などが出現したり、食道静脈瘤が破裂したり、肝臓癌などが合併したり生命に関わる状態となります。しかし禁酒を続けることで、ある程度改善します。

 

6.飲み過ぎには注意を(γGTPを一つの参考に)!

お酒に強い人でも飲み過ぎれば肝臓を壊します。肝臓でのアルコール処理能力には限界があり、日本酒1合(ビールなら大ビン1本、ウイスキーならダブルで1杯)を代謝するのに約3時間かかります。もし4~5合を夜遅くまで飲んでしまったならば、代謝するのに翌日の昼過ぎまでかかってしまいます。肝機能検査のひとつのγGTPは一般的に飲酒量とともに高くなってきます。体質的に高くなりやすい人と、そうでない人がいますが、いずれにしても男性なら100以下、女性なら50以下にするように心がけてお酒を飲みたいものです。また女性ホルモンはアルコールの分解を抑える働きがあるので女性は男性より少量の飲酒で肝臓を壊してしまうのでご注意を。一般的には時々付き合いなどで飲みすぎても、普段は1日2合以内、週に1~2回の休肝日を作れば、大丈夫なはずです。またお酒を飲む時には、すきっ腹で飲まないこと、脂肪を控えて、良質のタンパク質を取りながら、ビタミン、ミネラルの多い野菜を取って飲むことが上手な飲み方です。楽しく、体を壊さない飲酒がうまく「お酒と付き合う方法」です。

文責:大畑 充

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肝臓病の話3 「アルコール性肝障害とは?」

アルコールを比較的多く(通常日本酒で一日3合、5年以上:日本酒1合はビールでは大瓶1本、焼酎ではコップ6分目、ダブルのウイスキー1杯、ワイングラス2杯)飲んでいると、次第に肝臓の細胞や組織に異常が起こり、肝臓の機能に支障をきたします。

これがアルコール性肝障害です。

肝臓は人体の中で最も大きい臓器で、一部に障害が起きても予備能力があるため、簡単には悲鳴をあげない「沈黙の臓器」と呼ばれています。したがって軽度のアルコール性肝障害ではほとんど症状は出ませんので、血液検査や超音波検査(エコー)、CTなどの画像検査を行わないと診断がつかない場合が多いのです。当然飲酒量が多いほど、肝障害の程度は大きくなりますが、これには個人差が大きく、同じ程度の飲酒量であるから、肝障害も同じ程度になるとは限りません。

肝障害の進展度には食事内容、性差、遺伝的な要因などが様々に関与します。たとえば、女性ホルモンはアルコールによる肝障害を促進することが明らかにされており、女性は男性の約3分の2の飲酒量で男性と同じ程度の肝障害を起こします。

またお酒を飲むと顔が赤くなる体質の人(日本人の約半数)がいますが、これは肝臓でアルコールが代謝されてできるアルデヒドという物質が遺伝的に分解しにくいためにおこる現象で、このような体質の人は顔が赤くならない人に比べて、少量の飲酒で肝障害を起こすことも明らかになっています。

アルコール性肝障害の症状

軽度のアルコール性肝障害では、ほとんど症状はなく、検査をしないとわかりません。肝障害が進行すると、だるさ、食欲不振、右季肋部(右の肋骨の一番下)の鈍痛などが起こります。さらに進行すると、黄疸やむくみ、腹水、乳腺の腫れなどが生じます。またアルコール依存症になりますと、体調が悪くてもお酒をやめられず、飲酒をしないと手がふるえたり、不眠になったりします。

アルコール性肝障害の診断

診断は飲酒状況を把握して、血液検査と画像診断で行います。日本人に比較的多いウイルス性肝炎(B型肝炎やC型肝炎)をみわけることも重要です。

一般的に行われる肝機能検査はAST(GOT)、ALT(GPT)、γ-GTP(ガンマGTP)、総ビリルビン値、総タンパク値、アルブミン値などです。

γ-GTP値がアルコールに対して最も感度が高く、アルコールに非常に良く反応しますので、日常の飲酒状況の目安になります。しかし同じ量を飲んでも体質的にγ-GTP値が上がりやすい人と上がりにくい人がいますので、注意が必要です。

またγGTPは胆石などの胆嚢や胆管の病気、肥満でも上がります。AST(GOT)、ALT(GPT)は肝細胞の中に含まれている酵素で、何らかの原因で肝細胞が壊されると血液中に出てきます。これらの値が正常値より高い場合には、肝細胞に障害が起きていることを示します。通常アルコール性肝障害ではγGTPが上昇し、さらにASTやALTも上昇(AST>ALT)してきます。また禁酒をすると比較的速やかに肝機能が改善するのも特徴です。

これらの血液検査に加え、超音波検査(エコー)やエックス線CT検査で肝臓の腫大や脂肪の沈着を確認できれば診断はより確実です。肝障害がさらに進んでくると、肝臓で分解しているビリルビンが分解できずに総ビリルビン値が増加したり(いわゆる黄疸です)、肝臓の中で作られている総タンパクやアルブミンが低下してきます。この状態になると肝障害は相当進行しています。

アルコール性肝障害の分類(下図)

一般的には下図に示しましたように、アルコール性肝障害は脂肪肝→肝線維症→肝硬変と進んでいきます。また飲酒が急激に増加して、黄疸、発熱や腹痛など起こすアルコール性肝炎という特殊な病態もあります。
アルコール性肝障害の進展
アルコール性脂肪肝:毎日3合以上のお酒

を5年以上飲酒すると起こります。肝臓内に脂肪(中性脂肪)が過剰に貯まった状態です。禁酒すると1~2ヶ月で改善します。

②アルコール性肝線維症:脂肪肝の状態から

さらに飲酒を続けると、肝臓の細胞の周囲や肝臓内の血管の周囲にコラーゲンなどの線維が増えてきます。禁酒をすればこの線維はある程度吸収され回復しますが、飲酒を続けると肝硬変へと進展します。

アルコール性肝硬変:肝障害が長く続くと、

肝細胞は広範囲に破壊され、再生した細胞の周囲に線維が増え、肝臓はどんどん硬くなり凹凸となります。こうなると黄疸や腹水などが起こり、血液を固める成分(凝固因子や血小板)が低下し、出血が止まりにくくなり、肝臓が元の状態に戻ることは難しくなります。それでも禁酒によりある程度は回復します。

アルコール性肝炎:常に飲酒を続けており、

脂肪肝、線維症、肝硬変などの障害を持っている人が、急激な飲酒量の増加に伴って、黄疸や腹痛、発熱などを起こします。重症の場合には死亡する率が高くなります。

アルコール性肝障害の治療

γ-GTPが軽度上昇しているだけであれば、まだ肝臓の障害は強いとはいえませんが、節酒が必要です。AST(GOT)、ALT(GPT)が高い場合には、すでに肝細胞が障害されていますので、飲酒を続けると進行していきます。したがって禁酒が必要となります。

禁酒をするとAST、ALTは1~2ヶ月で低下してきます。またγ-GTPは禁酒すると通常2週間程度で半分位に低下します。脂肪肝や肝線維症ではこれでいいのですが、肝硬変にまで進行してしまった人やアルコール依存症患者は断酒(今後いっさいお酒を飲まないこと)しか方法はありません。食事も大切な治療法の一つで、良質なタンパクをバランス良く取ることが大切です。

アルコールは体内のビタミンやミネラルを壊してしまうので、これらの栄養素も十分に取る必要があります。また定期的に血液検査を受け、肝機能を把握しておくことも重要です。

予防としては、一般的には一日2合以内、週2回の禁酒を行えば、問題はないと考えられます。依存症の疑いがあったら、アルコール専門医に相談が必要です。

(文責:大畑 充)

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